3年前に創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 江夏豊、平松政次も長嶋を語る
今回は『1972年7月3日号』。定価は100円。
6月18日の
ヤクルト戦(後楽園)で
巨人・
長嶋茂雄が14、15号、通算396号と397号を放ち、400号に近づいた。
当時はいつもこうだったようだが、長嶋はすでに400号を打ったとき用のコメントを週べに出してくれていた。
「全国の野球をやっている少年たちはきっとおたくの雑誌を読むでしょう。だからこう書いてください。ホームランは僕でさえ偶然の産物です。その代わり400本を打ったということは、それだけいつも打撃の基本を忘れずにやってきた証拠なんだ、と。そういう意味で、やっぱり僕は誇りに思いますね」
開幕から好調を維持していたが、やや陰りも見えてきた。
打点48はいまだリーグトップだが、一時トップに立っていた打率は、6月19日現在.317。トップの
若松勉(ヤクルト)は.336だから少し離されてきた。
長嶋の記事は結構長かったので2回に分けるつもりだが、今回は相手投手についての話をいくつか紹介してみよう。
「阪神の谷村(谷村智博)は確かにいいピッチャーだ。ていねいなピッチングをするよ。球は速くないが、変化球がよく散っている。防御率がいいのは当然だと思う出来にあるね。
それから阪神ではなんといっても村山(
村山実)。この間の甲子園のときはヒジが悪かったんだろう? あれじゃ本物じゃない。しかし、その後、一生懸命やっているのは頭が下がる。何と言っても腐っても鯛、村山ですよ。彼がいいピッチングをしてくれたらこっちも燃える。
あとは大洋の坂井(
坂井勝二)ね。これはスピード違反だ。いや、投げる球じゃなくて投球のテンポがさ。あいつは早いのはピッチングだけじゃなしに、ゴルフのときも一緒にやると、すげえ打ち急ぎをやるんでね。せかせかして回る点はピッチングと同じさ、ハハハ」
この3人で一度話が終わったようだが、さらに記事では、当時全盛期の2人についても聞いた。
阪神・江夏豊、大洋・
平松政次だ。
「江夏はもう最高の投手だろうけど、僕は打っているからね。太り過ぎて一時の出来ではなくなっている。心臓病というのも気の毒だ。もっと体を大事にしてやれば、若いんだからまだまだ江夏時代を築いていけるはずだ。気迫と根性も大したものだが、もっと以前くらい速球を投げないと寂しい。
平松はひところ平松らしくなかったのに、北陸遠征ではすっかり復調していた。あれだけの速球をビシビシ決めるなら本物だ。僕にはえげつない
シュートを投げなかったけど、彼特有の外角速球がさえていた。
そうは言っても、僕が手も足も出なかったわけじゃない。平松の速球にピタリとバットは合っている。たまたま野手の正面に飛んだだけだ。こっちも気持ちのいいやられ方ですよ。その代わり、この次は必ずお返しする」
対して江夏、平松からの言葉も載っていた。
まずは江夏。
「たしかに今年はやられっぱなしですわ。あの人はもう神技みたいなバッティングを身につけていますよ。いぶし銀みたいな技の冴えというんですかね。王(
王貞治)さんは、ここに投げれば大丈夫、というツボがあるけど、長嶋さんはないですもん。正直、どこに投げても打たれそうや。今年は特に気合が入っている気がします」
次に平松。
「あの人は、どのコースでも自在にバットが出る。そこが並みのバッターと違うところです。僕はあの人が昔から好きで、子どものころからのあこがれでした。対戦するのは男冥利です」
では、またあした。
<次回に続く>
写真=BBM