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背番号物語

【背番号物語】阪神「#38」若き遊撃手が背負う先人たちの面影。戦火に消えた快速左腕、史上最高の三塁手……

 

名前が背番号?


現在、阪神で背番号「38」を着けている小幡


 去る2020年にプロ2年目、19歳で一軍デビューを果たした阪神の小幡竜平が背負う「38」。前任のマテオがセットアッパーとして活躍した印象が残るファンも多いだろう。ただ、プロ野球で巨人に次ぐ2番目の長い歴史を誇る阪神で、永久欠番の「10」や「11」、日本一イヤーの1985年に輝いた掛布雅之の「31」やバースの「44」などと比べて、「38」については語られることが少ない。近年は多少なりとも華やかになりつつあるが、プロ野球すべてでも、あまり話題にならないナンバーだ。だが、こうした見落とされがちな背番号でも、何かしらの物語が存在するのが背番号の世界。阪神の「38」が紡いできた物語は味わい深いものだ。

 プロ野球が始まった36年、「38」の選手は不在。というより、もっとも大きな選手の背番号が「21」、初代の森茂雄監督は「25」、ほかの20番台は欠番で、シーズン途中から指揮を執った石本秀一監督が「30」だったから、そもそも「38」という背番号が登場する余地はなかった。ペナントレースが初めて1シーズン制となった39年には選手の数も増え、「33」を除いて30番台の背番号が埋まる。このとき「38」を背負ったのが左腕の三輪八郎だった。ちなみに、プロ野球で初めて30番台が埋まったチームが阪神で、三輪はプロ野球の「38」でも初代となる。

「10」を永久欠番にした“ミスター・タイガース”藤村富美男をして、「速球だけで勝負できる数少ない左投手」と言わしめた三輪だが、残された資料が少ない選手で、なぜ三輪が「38」を与えられたかなど、後世の我々が知ることは難しい。だが、「三輪八郎」である。おそらく偶然ではあるまい。ほとんどの読者諸兄は同じことを想像したはずだ。もちろん、球団が与えたものか、三輪が欲しがったものかは不明だが、戦争に突き進む暗い時代を振り返るとき、わずかに心を休めることができる“必然”だったのだろう。

 背番号についてはともかく、三輪の実績は資料に残されている。入団したときは弱冠17歳。ブレークは2年目の40年だ。球が粗悪になり、“投高打低”になったシーズンにもかかわらず投手陣が精彩を欠いた阪神にあって、三輪は16勝5敗でリーグトップの勝率.762、リーグ4位の防御率1.51と孤軍奮闘。それまで巨人の「14」沢村栄治に2度のノーヒットノーランを喫していた阪神だったが、三輪は「38」を引っ繰り返した8月3日、当時は日本の統治下にあった中国東北部の大連で、巨人を相手にノーヒットノーランを達成して雪辱を果たしている。

 だが、43年オフに応召して、44年に戦没。戦前から戦中にかけて「38」を背負ったのは三輪だけだった。そして戦後の1リーグ期だけは「38」は空席だったが、それは30番台の背番号ほとんども同様。2リーグ制となり、多彩な選手がリレーしていく。

“史上最高”の三塁手が1年目に


1年目のみ背番号「38」を着けていた三宅


 83年に西武から移籍してきて後継者となり、翌84年に司令塔となった山川猛から捕手の印象が強くなった「38」。その引退で89年に継承して開幕を一軍で迎えた捕手の岩田徹が着けた10年間が系譜では最長だ。その後は2000年に与田剛士、02年には弓永起浩と、歴戦の投手たちが次々に「38」で引退して、ベテラン投手のフィナーレを飾る背番号に。投手では1975年シーズン途中から閉幕まで、阪急(現在のオリックス)から来た“ガソリンタンク”米田哲也が着けたこともある。

 一方の野手にとって「38」は“出世ナンバー”の傾向もあり、V9を謳歌する巨人と対峙していた70年代の前半に「2」の二塁手として活躍した野田征稔が2年目の64年から5年間、「38」で実績を積んでいる。ちなみに、野田が1年目に与えられた背番号は「72」。首脳陣よりも大きいどころか、その63年シーズンの阪神で、もっとも大きな背番号だった。

 さらに時代をさかのぼると、1年目に「38」を背負って台頭した野手には三宅秀史がいる。三宅は三輪、大島義雄に続く3代目で、1年目の53年は26試合の出場だったが、翌54年には「16」となり、57年シーズン途中から700試合連続フルイニング出場を成し遂げたタフガイ。その三塁守備は“史上最高”の呼び声も高い。

【阪神】主な背番号38の選手
三輪八郎(1939〜43)
野田征稔(1964〜69)
山川猛(1983〜88)
マテオ(2016〜18)
小幡竜平(2019〜)

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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