バックン、バックン。
腕組みをした後、激しい心臓の鼓動で指が上下する。
「ユニフォームの中に、何か生き物がいるのではないかと思うくらいなるんだよね」
近鉄、
日本ハム、
楽天で監督を務めた
梨田昌孝氏の弁だ。スクイズのサインを出したとき、相手に見透かされているのでは、とマイナス思考に体が支配されたという。名三塁コーチとして鳴らした
伊原春樹氏も2002年
西武監督となり、そのまま三塁コーチャーズボックスに立ち続けたがスクイズのサインを出した際、ちらっと相手ベンチに視線を投げかけたことがあった。
「あの伊原さんが……とびっくりしたね。それほど、監督という職業はプレッシャーがかかるものなんだよ」(梨田)
プロ野球のチームを率いる監督が味わう不安は、われわれの想像以上のものがあるだろう。ましてや、初となるや、プレッシャーに押しつぶされてもおかしくない。
今年から指揮官として初めてシーズンを迎えたのは三浦大輔監督(DeNA)、
石井一久監督(楽天)の2人(昨季、監督代行の
オリックス・
中嶋聡監督は除く)。きっと開幕後、シーズンが進むにつれ肉体的、精神的な疲労度はきっとかなり大きいものになるに違いない。
先述の梨田氏は近鉄、楽天のときは前年最下位、日本ハムのときは前年リーグ優勝と両極端な成績だったチームの後を継いだ。1年目の結果を見れば近鉄は最下位、楽天は5位、日本ハムは3位。しかし2年目、近鉄、日本ハムではリーグ優勝を成し遂げ、楽天は3位に躍進させた。
「そのときの経験から言うと、弱いチームは思い切ったことをしないといけないし、強いチームは状況判断を的確にすることが大事だということ」(梨田氏)
新人監督のシーズンはもうすぐ始まる。内なる不安はあるだろうが、自らの信念をぶらさずに突き進んでいってもらいたいと思う。
文=小林光男 写真=BBM