そのシーズン、チームの柱として認められた男が上がる開幕投手のマウンド。その初球はどこか『神聖』なものに感じられてしまうのは言い過ぎだろうか。
「プレーボールの瞬間、球場が静まり返るんだ」とかつて教えてくれたのは元阪急の
山田久志だった。プロ7年目の1975年から12年連続で開幕投手を務め、8勝2敗とエースの責任を十分に果たしたサブマリン。
山田が右腕からはなたれた第1球目に打者が手を出すことはなかった。そのボールが捕手のミットに収まって「バシッ」という音が響いた後、球場が沸く。投手と打者の間の暗黙の了解だ。
そこには開幕マウンドに立つために、すべてを懸けてきたエースへの敬意もあったのだろう。山田も「いまのバッターは1球目から打つことが多いけど、開幕戦の1球目は投手にあげてほしいと思うよ」と言う。
開幕は決して「143分の1」ではなく、特別な試合なのだ――。古き良き時代の野球人の強烈な思いも、そこには詰まっているように感じられる。
写真=BBM