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センバツ2021

大量リードを奪う中、なぜ天理・達孝太は164球を投げたのか?/センバツ2021

 

24年ぶりの準決勝進出


仙台育英との準々決勝。天理の先発・達孝太は本調子でなかったが8回3失点。チームを24年ぶりの4強へと導いた(写真=石井愛子)


 4つのゾーンに分かれるトーナメントの中で、天理が入ったのは、試合日程がもっとも早い「Aゾーン」である。1週間500球以内という「球数制限」においてはスケジュール上、有利に働いていることは間違いない。

 天理は仙台育英との準々決勝を10対3で下し、初優勝した1997年以来、24年ぶりの準決勝進出を決めた。193センチ右腕・達孝太(3年)は8回3失点。この日は8四死球と制球に苦しみ、164球を投げている。3試合の投球内容を、あらためて振り返ってみる。

1回戦(3月20日)
対宮崎商(7−1)9回完投、161球

2回戦(3月25日)
対健大高崎(4−0)9回完封、134球

準々決勝(3月29日)
対仙台育英(10−3)8回3失点、164球

 準々決勝は1回戦から1週間以上が経過しており、1回戦の161球はカウントされない。つまり、2回戦の134球が対象となり、準々決勝と準決勝で366球を投げることができた。この日は164球であり、中1日の休養日を経て、準決勝(3月31日)では残り202球の投球が可能だ。決勝(4月1日)へ進出した場合は、2回戦から1週間以上を経ているため、134球はカウントされず、対象は164球のみ。準決勝と決勝の2試合で336球が可能となる。数字の上では、達がこの上限に達することはほぼない計算になる。

 仙台育英との準々決勝は、序盤から点の取り合いとなった。中盤以降、天理は大量リードを奪い、6回を終えて10対2。達はすでに122球を投げ、次戦以降を見据えて、降板する選択肢もあったはず。天理・中村良二監督(元近鉄ほか)は三塁ベンチで、達との話し合いを重ねていた。

 指揮官はその意図をこう語った。

「7回で代ろうか?(144球)という話もありましたが、(達が)リズムをつくりたい、と。これはこれで、(準決勝は)良い状態で入れる。(この展開では)球数は気にしないほうが、これはこれで良かった」

 達は結果的に中盤以降に調子を取り戻し、9回にマウンドを譲った。試合の中で課題を修正。気持ち良く、ゲームを終えている。

中村監督の苦い思い出


天理の先発・達は準々決勝で164球を投じた(写真=高原由佳)


 中村監督は本人の意向も尊重するが「高校野球で終わってほしくない」と、コンディションには細心の注意を払ってきた。苦い思い出があるからだ。

 中村監督は天理高3年夏(1986年)の甲子園で主将として、全国制覇を経験している。

「僕の同期(本橋雅央氏)が右ヒジを故障しながら野球をしてくれて……。大学へ進んだが、そのヒジが致命的になって、野球ができなくなった。僕もケガで現役を終えた人間でもありますので、故障については、敏感なつもりでいます」

 土、日曜日の練習試合で2連投、中1日を空けて火曜日に試合を想定した投げ込みを行うなど、体と向き合いながら、さまざまな練習を積んできた。中村監督としては「(500球の)球数がいくまで投げさせてあげたい」と、あくまでもエース・達を主戦として試合を進めた上で「(500球に)行ってしまえば、皆で総力戦」という基本方針がある。

 1、2回戦は達の好投が目立ったが、この準々決勝は攻撃陣が奮起した。中村監督が「投手に頼ってばかりの試合が続いたが、今日は投手を助けた。褒めてやりたい」と言えば、3安打3打点の四番・瀬千皓(3年)は「打線がカバーできてよかったです」と話した。

 次につながる164球。天理は明日の休養日を挟み、準決勝に備える。達は昨秋の公式戦もほぼ一人で投げており、天理のゲームメークはエースなくしてあり得ない。日程面の優位性を生かしつつ、24年ぶりの優勝へ突き進む。

文=岡本朋祐
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