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高校野球リポート

「全員野球」で早実を撃破。敗退校の無念を背負う国学院久我山にある高校野球の原点

 

左翼のエースをベンチに下げて


国学院久我山の右腕エース・高橋風太(3年)は早実との東京大会1回戦で、8回1失点の好投。「全員野球」を徹底して4対1で制し、第4シード校から勝利を挙げている


 早実との春季東京都大会1回戦(4月4日)。4対1で迎えた9回裏二死三塁で、国学院久我山高・尾崎直輝監督は最後の一手に出た。

 この回から左翼の守備に入っていたエース右腕・高橋風太(3年)をベンチに下げて、二塁に長野慎之助(3年)が入り、二塁にいた上田太陽(2年)が左翼へ回っている。

 このさい配が、的中する。早実・和泉実監督が「主力として、機能してくれないといけない」と語っていた三番・壽田悠毅(2年)が快音を残した打球は、レフト後方へ。上田がこの大飛球をうまく捕球し、試合終了。両足がつりながらも、気迫の出場を続けていた高橋であったら、果たして追いつけたのか……。国学院久我山は、昨秋の東京大会8強進出の第4シード校から白星(4対1)を挙げた。

「ウチは、個で勝つわけにはいかない。打線は線になるぞ、と。バッテリーを中心に、守備では一体感を持ってやるぞ、と。コミュニケーションが取れるチームなので、連携を取って、全員でアウト一つを積み重ねていく」(尾崎監督)

 尾崎監督の方針を、生徒たちは十分、理解していた。昨秋は城北との1回戦で初戦敗退(17対18)を喫している。新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受け「練習不足。実戦不足でした」と指揮官は回顧。9月19日の敗退から長い冬に入り、今春までに「一回りも二回りも成長した。抽選会で早実との対戦が決まり、最大限の力を発揮しようと、試合を楽しみにしていました」と、この初戦を迎えた。

 早実の好右腕・田和廉(3年)に対してはスライダーを見極め、ストレートに狙い球を絞る攻撃を展開。「バント、ゴロを転がす、外野フライ、と一つひとつできることを着実にやっていこう」と、場面に応じて組織的に動き、着実に得点を重ねていった。

 144キロ右腕エース・高橋は、ゲームメーク能力に長ける。尾崎監督は「自分からゲームを崩すことはない。ゲームプランが立てやすく、試合中に指摘をすれば、修正が利く。(2019年夏に甲子園へ出場したエース右腕の)高下(耀介)みたいに、計算できる投手になっている」と全幅の信頼を寄せている。

 伝統の強打を誇る早実打線を7回まで無失点。しかし、8回表の打席で4点目となるタイムリー二塁打を放った際に、右足ふくらはぎがつった。二塁ベースまで、何とか到達するほどの痛みだったが、治療を経て「気力です。最後まで投げるつもりでした」と、8回裏もマウンドへ。だが、明らかに球威が落ち、制球も定まらず1失点。この回で降板して、2番手には唯一、1年夏の甲子園を経験している左腕・内山凜(3年)が右翼から救援した。

「一つの白星が欲しかった」


 そこで、冒頭の場面に戻る。三塁ベンチで声援を送った高橋はこう見ていた。「最後のアウト1個。自分がレフトにいるよりも、外野守備のうまい選手が入ったほうがいいという、チームの作戦です。ベンチ入りの背番号1から20、スタンドに控える全部員で取ったアウトです」。高橋は1年夏、背番号19で西東京大会優勝を経験も、甲子園のベンチ入り18人の登録メンバーから外れた。甲子園練習では打撃投手を担っており「もう一度、あそこに戻りたい」と、2年ぶりの全国舞台を狙う。

 尾崎監督は試合後、しみじみと語った。

「一つの白星が欲しかった。それは、私たちだけの思いではありません。昨秋の一次予選で対戦した明大中野など、一次予選敗退校はこの春の東京大会に出場できません(今春の一次予選は3月20日に開幕予定だったが、緊急事態宣言中につき中止。昨秋の東京大会に出場した64校がそのまま今大会に出場)。(無念である)各校の先生方の声も聞いており、皆さんの思いも背負って戦いました」

 国学院久我山には、高校野球の原点がある。全員が1球に集中する、ひたむきさと必死さ。この日の会場となったダイワハウススタジアム八王子に集まった多くの高校野球ファンも、すがすがしい気持ちで球場を後にしたはずだ。

文=岡本朋祐 写真=佐藤明
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