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【MLB】野球を多様なゲームに。守備シフト禁止の2つの狙い

 

守備の極端なシフトを禁止して、内野手の能力による華麗な守備を取り戻す試みをMLBは考えていく(写真はメッツのリンドア)


 前回に続いて、メジャーのゲームで打って走ってとアクションを増やすべく、今季マイナーの試合で予定される実験について書いていこう。

 今回は守備シフトの禁止。2Aで、4人の内野手は全員投球時に、両足を内野の土の上につけておかねばならない(前進守備で内野の芝生の上に立つのは良い)。違反すれば投球はボールと判定され、打者がその球を打ってヒットなどになっていれば攻撃側が良いほうの結果を選べる。さらに実験経過次第で、シーズンの後半戦は二塁ベースを境に、両サイドに2人ずつ内野手は分かれていないといけないとする。

 フィリーズのジョー・ジラルディ監督はオンライン会見で「シフト禁止には賛成だ。特に左打者はシフトを越す打球を打とうと力が入り、結果空振りと三振が著しく増えていた」と指摘した。対左打者で三塁手がライト前の芝生の上に立ち、そこにライナーや強いゴロがとんできてアウトになるケースがとても多かった。

 シフトの効果はてきめんで、MLBの平均打率は01年から09年は2割6分台だったのに、10年以降は2割5分台に下がり、18年は.248、20年は.245となった。つまり4回に1回もヒットにならない。

 メッツのフランシスコ・リンドア遊撃手は守備側から見た立場でシフト禁止に賛成した。「シフトは守備で才能に恵まれた選手が最高のプレーを見せる機会を奪ってきた。自分らしい動きで、これぞベースボールと喜んでもらえるプレーがしたい」と訴える。1年前、広島カープの菊池涼介二塁手がメジャー移籍を目指したが、シフトが普通になったメジャーでは、彼の守備範囲の広さは高く評価されなかった。

 一方でレイズの筒香嘉智選手は守備範囲が狭くても、正面に飛んで来た球を確実にさばいてくれれば良いとメジャーの三塁手を任される。データ野球の成果ではあるが、同時に野球ファンが長年目を見張り、熱狂してきた内野手の華麗なプレーを披露する機会が激減した。

 球界にはシフト禁止に反対の意見もある。打者が個々にシフトにアジャストし、野手がいない方向に打ち返せば良いではないかと。だが現実には、ここ数年そう言われながら、打者の打率は下がり、ホームランか三振か四球かという野球になっている。ちなみにいち早くシフトを導入し結果を出したレイズのケビン・キャッシュ監督の反応が興味深かった。

「実験するのは知っているけど、今はまったく気にしていない」と返答。禁止になったときに考えるということかと聞かれると「そうだね」と苦笑いした。自由な発想と大胆なアイデアで他球団を上回ってきた同球団は、ルール変更後に、新しい戦い方を考えれば良いと自信があるのだろう。

 さて前回はこのコラムで盗塁について、今回はシフト禁止で、ヒット数を増やし、内野手の好守を復活させる試みについて書いた。MLB機構の狙いは野球を多様なゲームにしたいということ。パワーで勝つチームがあっても良いが、同時にスピードで勝つチームも復活させたい。いろいろな戦い方をするチームがあって、さまざまなタイプの選手が勝利に貢献できる。現在のパワー偏重を是正したいのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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