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ベースボールゼミナール

イップス気味で送球が不安定な選手に最適な良い練習は?/元西武・平野謙に聞く

 

読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は外野守備編。回答者はゴールデン・グラブ賞に9度輝いた名手、元西武ほかの平野謙氏だ。

Q.コーチです。イップス気味で内野手から外野手に転向させた選手の送球が相変わらず不安定で困っています。どうやって練習させたらいいのでしょうか。(千葉県・36歳)


西武時代の平野氏の外野守備


A.「あわてるな。外野守備で、あわてていいことは一つもない」。しっかり捕球し、正しいステップをし、投げたい方向に投げる

 原因ははっきりしないことが多いのですが、スローイングが安定しないイップスは昔からプロ野球選手にもたくさんいます。外野手であれば、体全体を使う遠投は何とかなってもカットマンに向かって投げるとか、的がはっきりするとダメになる選手もいます。僕が日本ハムのコーチ時代で言えば、森本稀哲がそうでした。のちゴールデン・グラブ賞を受賞する選手ですが、最初はショートのカットマンまで送球が届かなかったこともあります。

 キャンプでずっと特守をやらせた中で、しつこく指導したのは足の運び、フットワークです。これを毎日練習させました。以前も触れたことがありますが、流れの中で投げることが多い外野手は、下半身、それも足の運びがスローイングの際、重要になり、むしろ上体、腕の振りはそれについていくだけみたいなイメージでもいいと思います。

 あとよくやらせたのが、20、30メートルの距離のネットスローです。まずは正しいスローイングを体に染みつかせようと思いました。どんなに頭で考えても体が動かなければできませんが、逆に考えなくてもできるくらい体にしみ込ませたら迷いも少なくなります。

 スローイングがうまくない選手というのは、大抵投げ急いでいます。早く投げたいのは分かりますが、早く正確に投げるためには、その前の段階が必要です。まずは、しっかり捕球し、そこから正しいステップをし、投げたい方向に投げる。そのために、たとえば1から5という流れがあったとしたら、間違えやすいのは2つ省略し、1から3で投げることです。投げるまでは速いかもしれませんが、球がブレたり、球速が遅くなり、結果的にはマイナスです。

イラスト=横山英史


 それより特に練習ではステップや腕をトップの位置に上げるなど、強く正確なスローイングをするために基本を省略することなく反復練習でしっかり体にしみつかせ、その上で、たとえば2秒かかっていた2の段階を1.5秒にできないかと考える。トップの位置に手の上げるのを少し速くできないかとか、そういう発想ですね。教訓めいた言い方をすれば、「あわてるな。外野守備で、あわてていいことは一つもない」です。

 ただ、稀哲がちゃんとスローイングができるようになったのは、ゲームでの成功体験が増えてからでした。ストライクの送球をし、アウトにした快感。それが忘れられなくなると、もう1回、やりたくなるし、そのためにはどうしたらいいか考えるようになります。

●平野謙(ひらの・けん)
1955年6月20日生まれ。愛知県出身。犬山高から名商大を経て78年ドラフト外で中日入団。88年に西武、94年にロッテに移籍し、96年現役引退。現役生活19年の通算成績は1683試合出場、打率.273、53本塁打、479打点、230盗塁。

『週刊ベースボール』2021年3月8日号(2月24日発売)より

写真=BBM
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