3年前に創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。 加藤への盗塁指導
今回は『1972年10月16日号』。定価は100円。
阪急が優勝を決めた9月26日。
遠く離れた福岡・平和台では、ベテランの
和田博実が早くからグラウンドに現れ、外野を走り、球拾いをしと動き続けていた。
しかし、すでに3年連続最下位が確定していることもあって、選手は皆、どこが気抜け状態。ベンチで雑談し、時々、大きな笑い声が起こった。
そのうち和田は一塁ベースの近くにきて、のんびりムードのベンチに向かい、
「おい。加藤、出てこい」
と声を掛けた。この年、3年目、ウエスタンから上がったばかりの加藤博一だ。
「おい、ヒロ。走ってみろ」
と加藤に盗塁を教え始めた。
「ええか、盗塁は足じゃないんだ。呼吸だ。タイミングをしっかりつかめよ」
和田は捕手ではあったが2ケタ盗塁6回と足も速かった。加藤は真剣な目で和田の話に耳を傾け、何度も走った。
その様子に
稲尾和久監督が「エーちゃんらしいな」とつぶやいた。
黄金時代の経験者である和田は、他球団が優勝を決めるのが癪に障るらしく、この時期になると、必ず何かやり始めるらしい。
「ウチも優勝は無理にしても個人タイトルを狙える選手が出てきてほしい。ファンから忘れられることは一時でも寂しいものだよ」
と和田。
ベンチに戻った加藤をからかうベテランもいたが、加藤はきっぱり言った。
「ベテランの和田さんがこんなに親切に教えてくれるなんて感激です」
西鉄魂は死なず、か……。
では、またあした。
<次回に続く>
写真=BBM