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プロ野球はみだし録

篠塚和典の奥深き単純明快なバッティング理論。「来た球を打つのが一番です」【プロ野球はみだし録】

 

「ボールを速いと感じたことはない」


左右に打ち分ける打撃が天下一品だった篠塚


 難しいことを難しく考え過ぎて、さらに問題を難しくしてしまうことは往々にしてある。時には大胆に、難しいことも単純に考えることも重要なのかもしれない。このときに必要とされるのは本質をズバリ見極める能力と努力。1980年代を中心に巨人で活躍した篠塚和典(利夫)の打撃論に触れるたびに、そんなことを考えさせられる。故障が多く、シーズン全試合に出場したことは皆無だったが、その打撃は天才肌。巧みなバットコントロールで安打を量産して、どんな球でもバットに当てる自信があったという。

 プロ野球が始まってから現在に至るまでファンを魅了し続けている快速球。そのスピードゆえに打者のバットが空を切る光景は、シンプルに魅力的だ。スピードガンが導入され、球速が明確に数値化されて以来、最高球速が更新されるたびに騒がれるのは、その証左だろう。同時に、そんな快速球に立ち向かい、一進一退の攻防繰り広げる打者の姿も魅力的だが、「ボールを速いと感じたことは、ほとんどない」と、いとも簡単に言い切るのが篠塚。タイミングに合わせて自身の打撃フォームもトップに入り、いつでもスイングできる態勢に。「そうすれば、(どんな速球でも)振り遅れることなんてありません」と胸を張る。さらには「データは見ませんでした。来た球を打つのが一番です」とも。シンプルだ。

 ただ、この単純明快さにたどり着くためには、打撃の隅々まで行き届いた創意工夫があった。篠塚の打撃といえば、その独特なバットを思い出す古いファンもいることだろう。一般的なバットのヘッドは丸くなっているが、そのヘッドを切り、丸みを削っていた。これも、ヘッドに当たっても安打にしようとした工夫ゆえ。角ばったヘッドに当ててヒットにする練習も繰り返したという。オリックスから海を渡り、メジャーでも通算3089安打を残したイチローも似たものを使うなど、後進にも影響を与えたものだ。

 このように、天才肌を発揮するためには不断の努力が前提であって……と、いちいち話を難しくしたくなるのは、やはり凡人だからなのだろう。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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