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ランナー三塁でのヒットエンドランは、なぜ硬式では目にしない?【後編】/元ソフトバンク・柴原洋に聞く

 

読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は打撃編。回答者は現役時代に巧打の選手として活躍した、元ソフトバンク柴原洋氏だ。

Q.軟式野球では常套手段と聞いたことがありますが、高校野球(硬式)でもランナー三塁でのヒットエンドラン(ランナーがスタートを切り、バッターがスクイズではなく、叩きつけるように転がして1点を奪う作戦)が一時期、流行ったように思います。が、その後、あまり見られないのと、プロではまったく目にする機会がないのですが、硬式で採用されないのはなぜでしょうか。そもそも成功させるコツはなんでしょうか。(大分県・33歳)


ソフトバンク時代の柴原氏のバッティング


A.硬式で同じ状況ならリスクを負わずにスクイズが多く、どうしても1点が欲しい場面は「ギャンブルスタート」

 前編からの続きです。ランナー三塁からのヒットエンドラン成功のコツはベンチがしっかりと状況を見て、ストライクを取りに来るカウントを読んだ上で、サインを出すこと。当て切る技術がバッターには求められること。ただし、軟式のように叩きつけても打球が弾まない硬式では、バントより正確性に疑問があり、リスクが大きく、ゆえに硬式ではあまり採用されていないことを解説しました。

 硬式で同じ状況ならスクイズが多く、仮にバットコントロールの良い選手が打席にいたとしたら、わざわざリスクを負ってまでエンドランをせず、そのまま普通に打たせると思います。どうしても1点が欲しいケースでベンチから出るサインとしては、ほかに「ギャンブルスタート」が考えられます。

 ギャンブルスタートは、ランナーに高度な判断力が求められる高等技術で、ピッチャーが投じるボールの軌道と、バッターのスイングの軌道が合っていると判断したとき、当たるか当たらないかのギリギリのタイミングでスタートを切る作戦です。一歩目を出す→カン(打球音)くらいのイメージでしょうか。「ギャンブルスタート」という名前のとおり、この場合はスタートしたら基本的には何が何でもホームを目指します。「ライナーバック」は二死以外のときのランナーの基本ですが、ギャンブルスタートのときは仕方がないと割り切って走ります。

 その結果、ダブルプレーになってもチームの作戦ですから、問題ありません。ただ、バッターが高々とフライを打ち上げたようなケースでは、三塁に戻る余裕があるので戻らなければなりませんし、バッターが空振りした場合も何とか戻らなければいけません。あくまでもボールとバットの軌道が合ったときにスタートであって、空振りで飛び出してしまったら、それはランナーのミスです。この部分が非常に難しいのですが、だからこそ、プロでは練習からギャンブルスタートの練習を繰り返し行っています。

 打球が転がってからの「ゴロゴー」(このサインではライナーバックです)とセットで練習することが多く、打撃練習(フリー打撃)中に三塁ベースにつき、打撃投手のボールの軌道と、スイングの軌道に合わせて行います。実際の試合では、土のグラウンド、足の速い三塁ランナーなど状況を見て、ベンチがサインを出すことが多いです。

<「完」>

●柴原洋(しばはら・ひろし)
1974年5月23日生まれ。福岡県出身。北九州高から九州共立大を経て97年ドラフト3位でダイエー(現ソフトバンク)入団。11年現役引退。現役生活15年の通算成績は1452試合出場、打率.282、54本塁打、463打点、85盗塁。

『週刊ベースボール』2021年3月22日号(3月10日発売)より

写真=BBM
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