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プロ野球回顧録

ピンチに表情変えず愛称は「鉄仮面」 通算141勝を挙げた巨人の右腕は【プロ野球回顧録】

 

プロ入りは巨人ではなく西鉄へ


巨人時代の加藤。表情を表に出さずに黙々と投げ続けた


 球界の盟主である巨人が「危機」を迎えた時があった。長嶋茂雄監督(現巨人終身名誉監督)の就任1年目だった1975年に最下位に低迷。ファンの風当たりが強い中で、救世主として西鉄からトレード移籍してきたのが加藤初だった。翌76年に15勝4敗8セーブ、リーグトップの勝率.789でリーグ優勝に大きく貢献。ピンチにも表情を変えず、勝っても笑顔を浮かべない。独特のスタイルで「鉄仮面」と称された。

 実は、巨人は入団を断った球団だった。亜大を中退し、社会人・大昭和製紙でエースとして頭角を現すと、71年秋のドラフトで即戦力右腕として複数の球団が指名を検討した。だが、大昭和製紙は左腕エース・安田猛(元ヤクルト)のプロ入りが濃厚だったため、「2人(の投手)が抜けるのは厳しい。加藤の指名は遠慮してほしい」と各球団に通達していた。その年の指名はなかったが、加藤はプロ入りをあきらめきれない。自ら西鉄に連絡を取ると、その噂を聞きつけて巨人から誘われた。

 西鉄と巨人のチーム事情は対照的だった。西武は「黒い霧事件」の影響で主力が大量に抜け、70、71年と勝率3割台の最下位に低迷していた。一方の巨人は、V9の真っただ中でまさに黄金時代だった。他球団の指名を断ってでも巨人に入りたい選手が多い中、加藤が選んだのは西鉄だった。その理由は、「どうせなら強いチーム相手に投げたい」。

 1年目の72年に17勝を挙げて新人王。荒れ球の直球は威力十分で、ピンチを作っても失点しない粘り強さがあった。プライベートでも仲が良かった1学年下の東尾修と「ダブルエース」で稼働。だが、75年オフに2対2のトレードを通告される。伊原春樹とともに移籍したのが巨人だった。移籍1年目の76年4月18日の広島戦(広島市民)で、習得したばかりのフォークを初めて使うとノーヒットノーランを樹立。この年は先発、救援とフル回転で15勝8セーブと長嶋茂雄監督の初優勝に貢献した。

 ところが、同年オフに大きな試練に襲われる。難病の肺門リンパ腫だったことが発覚。医師から引退を勧められたが、肋膜炎と発表して療養に努めると自然治癒した。77年以降は成績が低迷して80年は1勝のみに終わったが、「鉄仮面」は不屈の精神ではい上がる。翌81年にスライダーを覚えて12勝を挙げると、83年に右肩の血行障害で手術を受けたが、84年に10勝、86年は37歳で14勝5敗をマーク。試練は続く。翌87年春には臀部とかかと痛で歩くのも苦しい状況で特殊な足底板をつくってもらい、7勝1敗。90年限りで現役引退したが、41歳の晩年も武器の直球は140キロを超えていた。

巨人の先輩も感嘆する野球人生


 引退後は西武、韓国の3球団で投手コーチを務める。SKの投手コーチだった11年に体調を崩し、帰国後、直腸がんと診断され、余命半年と告げられながら5年にわたる闘病生活の末に16年12月11日に亡くなった。66歳の若さだった。

巨人から死去が発表された同月20日は加藤の67歳の誕生日だった。長嶋巨人終身名誉監督は「私が監督1年目だった75年の最下位から翌年に初優勝できたのは、初ちゃんの活躍があってのものでした。こんなに早く亡くなるとは、とても残念です」と別れを惜しんだ。

加藤(左)と堀内のツーショット


 巨人でともにプレーした堀内恒夫は加藤の3周忌だった18年12月11日に、「加藤初を偲んで」というタイトルで自身のブログを更新。「ひょうひょうとしていて感情を表に出さないのか出ないのか。ポーカーフェイスで何を考えているのかわからないし口数も少ない。ついたあだ名が『鉄仮面』(笑)まぁ、俺の悪太郎よりはいいだろう。体も俺くらいで大きい方じゃないけど重いボールを投げていたのが強く印象に残ってるね。三振も取れるピッチャーだったなぁ。黙々と粘りっこく投げてたね」と綴り、こう振り返っている。

「移籍1年目 優勝が決まった後現役続行が不可能とまで言われて入院したこともあった。でもそういうことはみんな後から聞くことばかりだった。何度か病気に苦しんだこともありながら投げ続けた19年 そして巨人の21番として現役を引退した男 強い意志を秘めながらそんな苦しみさえも表情に出さず自分の中だけに納めてきたのかな」

 西鉄で4年、巨人で15年間プレーし、通算490試合登板で141勝113敗22セーブ、防御率3.50。病気や度重なる故障から不死鳥のごとくよみがえる。首脳陣、チームメートから愛された「鉄仮面」は本当に頼もしかった。

写真=BBM
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