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【MLB】二極化するアメリカで政治問題にどう対処するか。コミッショナーの手綱さばきは?

 

人種差別問題が全米の問題になる中、マンフレッドコミッショナーも、それに対応する処置を行った。賛美両論はあるが、まずは最悪のシナリオは回避した形だろう


 アメリカ南部ジョージア州で、有権者の投票権を制限してしまう法律ができた。不在者投票での身分証明を厳しくし、期日前投票の期間を短縮し、投票に問題があると報告があれば開票作業への州議会の指揮、監督権を拡大するなどである。州議会で多数派を占める共和党主導で可決され、共和党のブライアン・ケンプ州知事が署名し3月25日に成立した。

 ジョージア州は元々共和党が強い州だが、昨年11月の大統領選挙では民主党のジョー・バイデン候補が勝利。共和党候補が負けたのは1992年以来、28年ぶりだった。番狂わせが起きたのは黒人有権者の後押しが大きかったとされ、ゆえに共和党はマイノリティの投票を妨げる法律をこしらえた。

 これに対し30日、公民権団体が「この法律は有色人種などの投票権を制限する」と訴訟を起こし、黒人の企業経営者72人が同様の法案への反対と企業の行動を呼びかける公開書簡に署名した。これは完全に政治の話であり、即座にプロ野球に影響を及ぼす問題ではなかったが、ロブ・マンフレッドMLBコミッショナーは迅速に動いた。

 今年ジョージア州アトランタ、ブレーブスの本拠地トゥルーイスト・パークで予定されていたオールスター・ゲームの開催場所をコロラド州デンバーに移した。そして「われわれはすべてのアメリカ人の選挙権を守り、権利に制限を加えることに反対する」と声明文を発表している。

 これに対し、MLBの一部のオーナーたちが反対意見を表明した。ダイヤモンドバックスのケン・ケンドリックオーナーは「賛成しない。MLBは政治に関わるべきではない。新たな開催場所を提供するのはブレーブスの友人への侮辱に当たる」と批判した。
テキサス州のグレッグ・アボット知事は、レンジャーズの本拠地開幕戦で始球式を予定していたが、抗議の目的でキャンセルした。ちなみに大金持ちのMLBのオーナーたちはほとんどが共和党支持者で、マンフレッド自身もそうだ。それでも動いたのは彼がコミッショナーだからだ。

 そのままアトランタで開催すれば、MLBの黒人選手を中心に抗議行動やボイコットが起こる恐れがあった。加えてアトランタを本拠とする巨大企業コカ・コーラやデルタも今回の法律に異を唱えており、リーグの大口スポンサーを失いたくはなかった。二極化が進むアメリカでは、まったく考え方や立場の違う人たちがMLBに関わっている。すべての人に良い顔はできない。

 コミッショナーは30人のオーナーに雇われる立場だが、今回はオーナーたちの意見を聞くのではなく、自分の考えで迅速に行動に移した。コミッショナーにはその権限がある。優先すべきは、1年前に新型コロナ禍でキャンセルされたオールスター・ゲームをきちんと行えること。ケンドリックオーナーの「MLBは政治に関わるべきではない」というのはもっともな意見だが、悠長に構えていたら後手に回って収束がつかなくなる。

 早く動いたことで、民主党のバラク・オバマ元大統領もバイデン大統領もマンフレッドの決定を支持し、黒人選手の側から最悪のシナリオを招く事態は避けられたのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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