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BBB(BAY BLUE BLUES) -in progress-

ブルペンを支える柱として――平田真吾、「心」の成熟/BBB(BAY BLUE BLUES) -in progress-

 


 終わってみれば大差のゲームも、展開を遡れば、勝者と敗者を分かつ一投一打は必ずある。

 たとえばベイスターズが10-2で勝った5月1日のスワローズ戦は、中盤までは互角だった。2-2で迎えた6回裏、無死満塁の絶好機を迎えたものの2者連続の空振り三振。ここで代打として送り出された倉本寿彦が初球からバットを出す。

 近藤弘樹が投じたのは、156kmの高速シュート。1ミリの弱気が混じれば押し負ける。得点のチャンスでありながら無得点のピンチの場面。それでも持ち前の積極性を失わなかったからこそ、打球は投手の足元をすり抜け二遊間を抜けた。2点を勝ち越すと、7回に一挙6点を追加した。

 倉本の攻めの一打が、勝負の分岐点だった。

カープ戦から潮目が変わった。


 開幕から1カ月、どん底の苦しみを味わってきたベイスターズが息を吹き返し始めている。

 潮目が変わったのは4月28日のカープ戦からだ。13-2(9回表途中降雨コールド)と大勝し、10連敗を止めた直後に再び始まった連敗を「3」で食い止めた。

 この試合にもやはり、道の分かれ目となる攻防があった。

 5-1の4点リードで迎えた5回裏。先発の京山将弥がカープ打線につかまった。3連打で1点を失い、3点差。なお1アウト一三塁とピンチが続く。

 このイニングをリードを保って投げきれれば、京山は今シーズン初勝利の権利を得られる。だが、さらに点差が詰まれば、せっかく握った試合の主導権が相手に渡りかねない。

 チームは3連敗中で、前日は1-10と大敗していた。そんな状況のなか臨んだ一戦で、初回に先制を許しながらすぐさま逆転に成功した。つかみかけた流れを手放してはいけない場面だった。

 ベンチは動く。京山に代えて、平田真吾をマウンドへ。打席では會澤翼が待ち構えていた。


 一発が出れば同点。平田が振り返る。
「重圧みたいなものはそんなに感じませんでした。目の前のバッターを一人ずつ、しっかり打ち取ることだけ」

 対峙する打者が捕手であるということが、投手の警戒心を高めた。「配球を読まれたら苦しくなる」。嶺井博希とサインを交換、初球にはスライダーを選択した。

 スライダーは平田の代名詞ともいえる球種だが、今シーズンに限っては「あまりよくない」。だから、會澤に1球目を投じるとき「ちょっと変化をつけようかな」と閃いた。

「初球を狙われてると思ったので、ちょっと抜き気味の感じで投げたんです。球速を落として。それがうまくハマってくれた。いつもどおり投げていたら、たぶん打たれていたと思う」

打たれたことばかり覚えている。


 機転の一球で空振りの1ストライクを奪うと、2球目からはツーシームを連投した。

 入団7年目にして初めて一軍で完走した昨シーズン、ツーシームはスライダーとともに強力な武器となった。以前から持ち球の一つではあったが、昨シーズンの開幕前に改良を加えたことで信頼度が増した。

「自主練習の期間中は自由にピッチングができたので、(回転量や回転軸などを計測・分析できる)“ラプソード”を使って練習しました。いろいろな握りを試して、回転軸を意識しながら習得していった感じです。(変化の方向が逆の)スライダーと対になるボール。そこはしっかり意識づけしていかないと、ぼくも生き残れない」

 現状「失投がいちばん少ない」ツーシームを3球続けた。會澤の打球は三塁線へのゴロ。ダブルプレーの完成を見届けた背番号34が、マウンドを駆け下りる。反撃の芽を軽やかに摘み取った。

 主導権を握って離さなかったベイスターズは7回と8回に4点ずつを加点。投手の粘りと打線の熱が噛み合った、流れを変えうる勝利になった。

 平田にとっては、今シーズン13試合目の登板だった。内訳は、ビハインドの場面とリードの場面が6試合ずつ、同点の場面が1試合。開幕からフル回転といっていい。

「(さまざまな状況で)名前を呼ばれる。そこはすごく幸せなことだなって思います。活躍してチームの勝利に貢献したいという気持ちがいちばん」


 必要とされる喜びを日々感じつつも、記憶は悔しさのヴェールに覆われている。ベストピッチの試合は思い出せないのに、打たれた残像だけは鮮明に呼び戻せる。

「よかった試合は、別に。覚えてないですね。やっぱり打たれたのは結構覚えてます。阪神戦で2回、サンズに(ホームランを)打たれて。ヤクルト戦でもありましたし……。これからもまだ対戦はあるので、しっかりやり返していけたら」

 最も悔しかったのは4月25日、甲子園でのタイガース戦だという。7回表の攻撃で味方が逆転。その裏、ノーアウト一二塁という状況で右腕にバトンが託された。

 送りバントと犠牲フライで1点のリードは埋まる。2アウト三塁。ここで打席に迎えたサンズにストレートを痛打された。打球はセンターのフェンスを越えた。

「最低でも同点で後ろに回さないといけなかった。それができなくて、ほかのピッチャーや野手に申し訳ない気持ちがありました」

 最終的にはツーシームで勝負に行きたかった。それをより効果的なものとするために、ストレートを見せておく必要があった。右打者外角のコーナーいっぱい、ボールになってもいいと腕を振った。それがシュート回転し、中に入った。

 平田は言う。
「あのボールをしっかり投げないと、始まらない」

「しっかり投げれば結果は出る」


 過去、安定して結果を残すことができない時期が長かった。いつからか、向き合う打者以前に、自らの心に募る危機感が敵になっていた。いくら「力むな」とアドバイスされても「リラックスして投げて打たれたら後悔が残る。力を抜く勇気がなかなか出なかった」。

 それを克服できたのが昨シーズンだ。マウンドで肩の力を抜いた。本来の敵である打者と勝負できるようになった。自己最多43試合に登板、防御率を2点台に留め、ブルペンを支える柱の一本となった。


 今シーズンも、そのメンタルに変化はない。「力むな」「頭を突っ込むな」と口酸っぱく言い続けてきた川村丈夫投手コーチも、今年はもう同じ助言を繰り返さなくなった。

 サンズに勝ち越しの本塁打を浴びたあと、気持ちの整理はすぐにできた。自分のミス、あくまで自分の責任ということがはっきりとわかっていたからだ。

「いい球を打たれたわけではなかったので、逆に切り替えやすかった。そこは改善しやすいというか。自分がしっかり投げれば結果は出るってことだと思ってるので」

 技術面の再調整にも、昨シーズンの経験が生きた。「1年間一軍にいて、引き出しは増えた」。下半身の使い方や投球時の目線のブレに課題を見いだし、対処した。

 意図どおりの球を投げきれず打たれたタイガース戦、その次の登板が4月28日のカープ戦だった。會澤を相手に、投げきった4球。平田の手に勝ち星が転がり込んだ。

 昨シーズン、先発した試合でプロ初勝利を挙げた。中継ぎとしてつかんだ、通算2勝目の味は――。そんな質問を、平田らしく飄々と交わした。

「特にないです。いや、ほんとにないですね。ホールドを取ったのと同じような感じ。特にもう(勝ち星を)意識することはないので」

 5月2日終了時点で、33試合のうち15試合に登板した。いまは数よりも「1年間こっち(一軍)で戦力になることがいちばんの大きな目標」だ。登板数、あるいはホールド。リリーフ投手にとって誇れる数字は、きっとあとからついてくる。

“黙って投げるだけ”の男が……。


 実は、あのカープ戦の試合前、あるリリーフ投手が選手全員の前に歩み出てスピーチをしていた。

 4月20日から一軍に合流していたE.エスコバーだ。

 外国人選手の戦列復帰は起爆剤になると期待されていたが、エスコバーの合流後も1勝1分5敗と、チームは苦境から脱け出せずにいた。10失点の大敗から一夜明け、タフな左腕は熱っぽく語りかけたという。

「いま、負けに慣れてしまっていて雰囲気があまりよくない。この現状を打破するために、もう一度、一人ひとりがパフォーマンスを上げよう。そして、しっかりと準備をして、目の前の戦いに全力で挑もう!」

 ブルペンの仲間の言葉に、平田は「自分にできることをしっかりやろうと再確認した」。エスコバー自身、その日の試合で任された1イニングを無難に抑えた。チームは翌日の試合にも勝って2連勝。続くスワローズとのカードにも勝ち越した。アクシデントも含めて先発が早くに降板する試合が続くなか、ブルペン陣のバックアップが力強かった。

 普段は黙って投げるだけの男が発したメッセージから、いま上昇の機運は生まれようとしている。

 今年32歳、投手陣最年長の一人となった平田は言った。
「助っ人が来てくれて、人も揃ってきた。チーム状況はすごくよくなっているし、ここからしっかり巻き返せると思います。まだ全然始まったばっかり。いちばん上に行けるように。行けるようなチームだと思うので。ここから上がっていくだけです」

 落ち込んだ谷は深かった。一つずつ、着実に、取り返していく。




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写真=横浜DeNAベイスターズ
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