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【背番号物語】小林繁「#19」“江川事件”で勝ち得た勲章? 名門GTで沢村賞に輝いたサイドハンドの象徴

 

1年目だけは「40」


巨人では2年目から背番号「19」を着けた小林


 現在の12球団に限らず、プロ野球の歴史を彩ってきた球団すべての中で、もっとも歴史が長いのは巨人、それに続くのが阪神だ。プロ野球が始まった1936年から王座を争った両チーム。以来、現在に至るまで、熱戦であれ凡戦であれ、巨人と阪神の対決は“伝統の一戦”と言われる。

 一方で、その36年の王座決定戦で熱投を演じて観客を沸かせ、これがなければプロ野球の継続もなかったかもしれないとも言われているのが巨人の沢村栄治。その「14」が永久欠番となっていることは紹介しているが、戦後、戦火に消えた沢村の名を冠して、各シーズンで活躍した先発投手に贈られるのが沢村賞だ。

 2リーグ分立の50年からはセ・リーグのみの賞となり、パ・リーグの投手も選考の対象になったのは時代が平成となった89年からだが、巨人も阪神もセ・リーグのチーム。あくまでも現時点だが、その巨人と阪神の2チームで、プロ野球で唯一、沢村賞に選ばれたのが小林繁。巨人で77年に、阪神で79年に受賞しているが、当時は近年のようにFAなどはなく、移籍にはネガティブなイメージが根強かった時代だ。いわゆる“名門GT”の両チームで沢村賞に選ばれる投手が今後は現れる可能性も低くはないだろうが、衝撃的な移籍を経て受賞した小林の前では色あせて見えてしまうかもしれない。そんな小林が巨人と阪神で背負ったのが「19」だ。

 社会人の全大丸でプレーしていた71年の秋に巨人からドラフト6位で指名された小林は、翌72年の都市対抗が終わってから契約し、その翌73年に入団。最初の背番号は「19」ではなく「40」だった。小林のプロ1年目は巨人が空前絶後のV9を決めたシーズン。1勝もできなかった右腕が注目されたのは、奇しくも阪神との対決、負けたらV9は絶望的といわれていたた10月11日、後楽園での“伝統の一戦”だった。乱戦となった終盤、救援のマウンドに立った小林は完璧な投球で試合を引き分けに持ち込む。そのオフに与えられた背番号が「19」だった。

【小林繁】背番号の変遷
#40(巨人1973)
#19(巨人1974〜78)
#19(阪神1979〜83)

 体をカクカクさせるような独特な変則サイドハンド。当時の野球少年は空き地で小林のフォームをマネしたのではないか。これは巨人の先輩で、“一本足打法”の王貞治を参考にしたものだという。これで打者はタイミングを外され、そこからの気迫がこもった投球に圧倒される。小林は4年目の76年から2年連続で18勝を挙げてリーグ連覇に貢献して、77年が初の沢村賞。エースの座に就いたかと思われた矢先の翌78年オフ、“事件”が起きる。

「19」で8年連続2ケタ勝利も……


阪神でも「19」を背負ってエース級の働きをした小林


 78年11月21日、このドラフト会議の前日、いわゆる“空白の1日”に、高校、大学と剛速球で“怪物”と騒がれて、巨人への入団を熱望していた江川卓と巨人が契約。野球協約のスキを突いた前代未聞の“暴挙”は当然、大騒動に発展し、巨人はドラフトをボイコット、そのドラフトで4球団が競合した江川の交渉権を獲得したのが阪神だった。この“江川事件”の顛末は別の機会に譲るが、最終的に江川は阪神へ入団した後にトレードで巨人へ移籍するという形で“強行着陸”。キャンプの前日、翌79年1月31日に江川とのトレードを告げられたのが羽田空港にいた小林だった。

 このときの会見で見せた晴れ晴れとした笑顔もあり、“ヒール”に転落した江川とは対照的に“ヒーロー”のように人気を集めた小林。阪神の「19」を着けていた右腕の工藤一彦は「26」に変更となり、阪神でも引き続き「19」を背負った小林は、巨人戦8連勝を含む自己最多の22勝で初の最多勝、2度目の沢村賞に。江川の“被害者”として語られがちな小林だが、この移籍がなければ巨人と阪神で沢村賞という快挙がなかったのも事実だ。あらためて阪神でエースの座を不動のものとした小林だが、巨人と阪神にまたがり8年連続2ケタ勝利とした83年オフ、突然の引退。この83年は13勝だったが、開幕を前に「15勝できなければ引退」と宣言しており、有言実行のフィナーレだった。

 その後、小林の「19」は、巨人でも阪神でも多くの投手たちが継承、小林に負けない活躍を見せて、印象も上書きしている。ただ、沢村賞もさることながら、この2チームで同じ「19」を背負ったのも、現時点では小林が唯一だ。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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