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「内角をさばけるかどうか」野村克也氏が考える一流打者の基準。阪神・佐藤輝明の可能性は?

 

向こう気の強さがプロ向き


新人ながら阪神の主軸を務める佐藤輝


 セ・リーグ首位を走る阪神のゴールデンルーキー、佐藤輝明が日増しに存在感を増している。球団としては1980年に18本塁打を放った岡田彰布以来、41年ぶり5人目となる新人での2ケタ本塁打をマーク。ドラフト制を導入した1966年以降では、新人最速となる33試合目で到達した。5月2日の広島戦(甲子園)から四番に座り、あふれんばかりの才能をアピール。驚きのニューフェースは、早くもチームを代表する顔になりつつある。

 DeNAの本拠地・横浜スタジアムで行われる阪神戦の攻撃時、佐藤輝が登場すると、球場外に向けてアナウンスが流れる。

「ただいま阪神の佐藤選手の打席です。打球が場外まで飛ぶことがございますので、ご通行の際は十分ご注意ください」――。

 きっかけは4月9日の試合だった。6回、国吉佑樹のカットボールをとらえると、すさまじい破裂音を残した打球は右中間席のはるか頭上へ。衝撃を受けた球場関係者は、翌10日から危険回避のアナウンスを決めた。過去に外国から来た助っ人大砲の打順で同様の注意喚起がなされたケースはあるが、日本人選手としては極めて珍しい。

 佐藤輝の魅力は、パワーとしぶとさを兼ね備えたバッティングだ。アマチュア時代の恩師である近大の田中秀昌監督は、「彼はいつでもフルスイングができるのが強み」と話す。三振こそ多いが、信条の「甘い球は一発で仕留めたい」というアグレッシブさがベースにある。小手先の打撃に走らない潔さが、スケールの大きさを感じさせる。

 開幕直後から執拗な内角攻めに苦しんだが、みるみる適応。10号ソロを放った5月7日のDeNA戦(横浜)では、中川虎大の145キロのインハイへの真っすぐをしっかりとたたき、右翼席上段まで運んだ。「内(インコース)は頭にあった。うまく反応できた」。やられっぱなしでは終わらせない向こう気の強さがプロ向きと言える。

「びっくりするようなことを起こせる」


圧倒的な飛距離を生むスイングは強烈だ


 打者にとって、内角球は厄介なボールだ。ひるむことなく向かっていくには勇気が必要だし、確実にとらえてはじき返すには、高度な技術が必要となる。始動からいかにスムーズにインパクトまでつなげられるかが打者の永遠のテーマ。緩急で態勢を崩されようが、軸をぶれさせては強い打球が飛ばない。体に近い内角球はさばくのが難しく、両ヒジを巧みに使うセンスが必要。体に近いボールを瞬時にさばくスイングは、そう簡単には習得できない。

 ボールを遠くに飛ばすのは生まれながらの才能だろう。バッテリーの脅威となる飛距離を稼ぐには、常人離れした身体能力の高さもなければならない。それら複数条件を備え、高いレベルでシーズンを通して持続できる選手が、真のスラッガーと呼ばれる。

 プロ野球の捕手としては初の三冠王を獲得し、監督としても実績がある野村克也さんは、よく「強いチームには、絶対的な四番が不可欠」と語りながら、「打者が一流か二流かの分かれ道は、内角球をさばけるかどうか」と説いた。名将のバロメーターから推測すれば、佐藤輝は一流打者になる可能性を十分に秘めている。

 勝負強い好打者にとどまらず、野球の華であるホームランを打てる打者というのがいい。現役時代に通算868本塁打を放ったソフトバンク王貞治球団会長は、「いずれは日本の四番になってほしい」と期待を寄せる。阪神の矢野燿大監督は、佐藤輝を「びっくりするようなことを起こせる、何かを持っている」と評する。ワクワク感が満載の佐藤輝の打棒は、プロ野球ファンが待ち望んでいたスターの誕生を思わずにはいられない。

写真=BBM
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