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背番号物語

【背番号物語】近鉄「#9」近鉄きっての外野手ナンバー?“魂のバックホーム”から平野、新井の中堅手リレー

 

ヘルメットには「999」?


近鉄で最長となる9年間、背番号「9」を着けた平野


 時空さえ超えれば、高校球児と同じ背番号の選手をダイヤモンドに並べられる近鉄。これを外野にまで広げてみると、高校野球の背番号どおりに外野の各ポジションでレギュラーを務めた選手をそろえることは難しいものの、ベストナインやゴールデン・グラブのように、外野手という括りにすれば容易になる。「7」には淡口憲治大村直之がいた。「8」は捕手の系譜だったが、礒部公一が外野手に転向して21世紀に継承している。ただ、もっとも外野手のイメージがあるのは最後のナンバーとなる「9」だろう。とはいえ、高校野球では右翼手の背番号である「9」だが、近鉄では右翼手よりも圧倒的に中堅手の印象のほうが強い。

 近鉄の「9」に中堅手のイメージを植えつけたのは近鉄が初のリーグ優勝を果たした1979年のレギュラーだった平野光泰だろう。当時のパ・リーグは前後期制で、それぞれの覇者がプレーオフでリーグの優勝チームを決めるスタイル。前期の覇権を争った近鉄は、前期の最終戦に勝つか引き分けるかで優勝、その8回裏を引き分けで迎え、1点でも奪われれば優勝が一気に遠ざかっていく、という、なんとも近鉄らしいドラマチックな展開に。対する南海は、二死一、二塁から中前打。これをさばいたのが平野だった。まさに鬼の形相で火を吹くようなバックホーム。これを受けた捕手の梨田昌孝は「これで終わりか、と思ったら平野さんが猛然とチャージしているのが見えて、白いボールが、ひと筋の光のように、どんどん、どんどん、大きくなって。これを落としたら、えらいことだ。それくらい素晴らしい返球でした」と振り返る。

 梨田のミットへド真ん中、ダイレクトのバックホーム。“魂のバックホーム”“奇跡のバックホーム”として語り継がれる、近鉄が誇る名場面のひとつだ。守備の名手であることは間違いないが、打っても頼りになるのが平野。後期を制した阪急とのプレーオフ第2戦で王手をかける決勝本塁打、近鉄がリーグ連覇を飾った翌80年にはサイクル安打を達成している。「9」となった77年から5年連続2ケタ盗塁の韋駄天でもあった。ちなみに、平野は「37」「22」に続く3つめの背番号が「9」だが、ヘルメットに貼るシールは「9」を3つ並べて「999」にしていた。人気アニメ『銀河鉄道999』が由来という説もあるが、真相は不明だ。

 平野が85年オフに引退すると、「9」とともに中堅手としても後継者となったのが南海の「6」だった新井宏昌だ。

「37」との不思議な縁も?


新井は移籍2年目の87年に首位打者に輝いた


 新井は移籍2年目の87年に130試合制で最多の184安打を放って打率.366で首位打者に輝き、通算2000安打に到達した92年いっぱいでバットを置く。その後継者が外野手で新人の内匠政博で、1年目から3年連続2ケタ盗塁、2年目から貴重な「9」の右翼手として活躍した。内匠は2000年、かつて平野が着けた「37」に。やはり外野手で新人の鷹野史寿が「9」となる。内匠は02年オフに近鉄ひと筋で引退、鷹野は分配ドラフトで移籍した楽天でも初代の「9」となり、チームこそ変わったものの「9」ひと筋を貫いた。

 近鉄の「9」で最長は9年間の平野。ただ、続いた新井も近鉄の「9」らしい存在といえる。のちに打撃コーチとしても名を馳せた新井だが、同じく打撃コーチとして手腕を発揮したのが平野の前任だった伊勢孝夫だ。選手としては勝負強い打撃で“伊勢大明神”と呼ばれ、6年目の69年に「55」から「9」に変更して一塁のレギュラーに定着、76年オフにヤクルトへ移籍するまで背負い続けた。ちなみに、伊勢はヤクルト2年目まで「37」を着けている。

 伊勢の前任者が「8」でも紹介した捕手の吉沢岳男で、63年から68年オフに中日へ復帰するまでの6年間。その前の3年間が正遊撃手の矢ノ浦国満で、63年から「1」となるも、66年にサンケイ(現在のヤクルト)へ移籍している。矢ノ浦の前に「9」だったのは毎日(現在のロッテ)から移籍してきて正捕手となり、2年で引退した佃明忠。その前任者が初代となる。中日から50年に近鉄の結成に参加、2チームにまたがって二塁のレギュラーを務めた山本静雄だ。

【近鉄】主な背番号9の選手
山本静雄(1950〜57)
伊勢孝夫(1969〜76)
平野光泰(1977〜85)
新井宏昌(1986〜92)
内匠政博(1993〜99)

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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