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BBB(BAY BLUE BLUES) -in progress-

33歳でチーム最年長、大和が背中で示すもの/BBB(BAY BLUE BLUES) -in progress-

 


 水滴が竹筒の中にひと粒ずつ滴り落ち、溜まり水は徐々にかさを増す。その重みが限界に達したとき、勢いよく傾いた竹は石を打ち鳴らす。

 5月21日、神宮球場。8回裏、スワローズに奪われた1点にはそんな趣きがあった。

 序盤は小刻みに加点したベイスターズのペースだったが、中盤以降、失速。7回と8回の攻撃は1人の走者さえも出せずに終わった。じわじわと敵に傾く流れ。2イニング連続で三者凡退に封じられた直後、同点に追いつかれた。ここまでなんとか耐え忍んできた防御線を破られた。

 ゲームの転換点は、4回裏にあった。先頭打者、青木宣親の打球は球足の速いゴロとなり、三遊間寄りに。バックハンドで捕球した大和は振り返りざまに送球したが、大きく逸れた。この出塁を起点としてスワローズ打線に2点を返され、1点差に詰め寄られた。

 エラーをおかした大和は、同点に追いつかれた場面を振り返り、言う。

「あの試合、負けたら全部、自分のせいだと思っていた。ピッチャーが打たれようが何をされようが、誰も悪くないというか。全部、自分の責任だと思っていました」

 決して表情には見せなかったが、すべてを背負う覚悟だった。


「打てれば自分の勝ち」


 同点の9回表、最後の攻撃も2アウト走者なしまで追い詰められた。

 だが、代打として打席に入った関根大気のクリーンヒットが突破口を開く。桑原将志が三遊間を破るヒットで続いた。

 勝ち越しのラストチャンス、次打者は大和――。

 この回に打席が巡ってくることは「ある程度、予想していた」という。

「ああいう流れのときって、だいたい自分のところまで回ってくるんですよ。そこで打てなかったら自分の負け。打てれば自分の勝ち。そういう考え方で準備していました」

 大和の打率は2割に届いていない。それでも三浦大輔監督は「状態が上がってきている」と見て、代打の選択肢を捨てた。もとより大和は「自分で行く気でいた」。

 マウンドには石山泰稚がいた。クローザーとしての実績豊富な右腕だが、集中力が満ちた打者の心に弱気が入り込むスキはなかった。

「バッティングの状態はここ数日そんなに悪くなかったし、その日の3打席も悪い感覚はなかったので。とにかく『打てる球が来たらいこう』と」

 外野の前進守備は見えていた。「越えれば1点は入る」。3球目、149kmの外角ストレートをうまくバットに乗せた。インパクトの瞬間に、外野の頭上を越えると確信した。打球が右中間を転がる間に、俊足の走者2人は悠々とホームイン。

 大和は到達した二塁塁上でガッツポーズをつくった。「正直、ひと安心」。誇らしさより安堵がまさった。


 昨シーズン、出場試合数は減ったものの、打撃の面でキャリアハイの成績を残した。打率.281、出塁率.342、4本塁打。今年はじめ、好成績の要因を「自分の形が見つかったというのがいちばん大きい」と語っていた。

 ところが今シーズン、見つけたはずの「自分の形」が機能しなかった。打撃練習でトス上げの手伝いをしている広報の狩野行寿は、苦悩する大和の姿を間近で見てきた。

「大和さん、(自宅で)バッティング練習をしてから来るんですけど、球場で会うと『見つかったわ』って。でも試合が終わったあとの練習のときになると『やっぱり違った』。そういうことを何日も繰り返していました」

 どんな状況だったのか。大和自身が言う。

「去年までの自分の形にこだわり過ぎていた部分がありました。頑固なところがあって、なかなかうまくいかないのに、それをずっとやり続けていた。どうしても完璧を求め過ぎてしまって……」


見え始めた「新たな形」。


「この形を維持していれば大丈夫」というたしかな思いがあったからこそ、変えることに抵抗があった。だが、やがて変化の必要性を認めざるを得なくなった。

「自分が頭で思っているのと、体の動きが全然違ったり。実際にやっている感覚と、映像で見る自分の姿が全然違ったり。やっぱり体の変化というものがいちばん大きいのかなと思います。(昨シーズン終了から今シーズン開幕まで)たった数カ月ですけど、その間に体って変わると思うので」

 修正を重ねたすえ、ようやく新たな形は見え始めている。5月16日のカープ戦では、今シーズン初の猛打賞を記録。調子が上向いていることを認める。

「いまは落ち着いている。(新しい)自分の形を継続して、『これを壊さずにやろう』というものはありますね」

 今シーズン、開幕から出場機会になかなか恵まれなかった。3連戦のうち1試合でスタメン入りする程度のペースだった。ポジションへのこだわりを捨ててまで出場への意欲を燃やしてきた大和にとっては、つらい時期だった。

「自分の出番がいつ来るかわからないという不安もありましたし、ゲームでしかわからない感覚というものをなかなか自分に吸収できないところもあったので。どう対応していくか、難しさがあった」

 自身の打撃に悩み、出場機会は不規則で、チームは大型連敗を喫するなど、苦境は重なった。それでも、大和は自らの役割を自覚し、淡々と仕事をこなした。

 脳裏に浮かんでいたのは、タイガース時代の敬愛する先輩、鳥谷敬(現マリーンズ)の姿だ。大和は以前、こう語っていた。

「鳥谷さんが人よりたくさん練習をして、人よりたくさん考えて、いろんなことに取り組んでいる姿を見ていました。見よう見まねでやってましたけど、やっぱり自分らには限界がありましたよね。それを続けられる鳥谷さんは本当にすごい」


「自分とすごく似てる部分がある」


 今年、大和は33歳ながらチーム最年長の選手になった。かつて手本として見ていた背番号1の姿を思い起こしながら、背番号9はベイスターズの年下の選手たちに範を示そうとしている。

「細かいことを言えば、たとえばウォーミングアップ。個別にすることが多いんですけど、そういうなかでもいちばん最初にダッシュを始めるだとか、動き出しをいちばん早くするだとか。プレー以外のことに関して、そういう姿勢を見せられるようにしています。自分も若いころに見せてもらった。それをやるのが上の人の役目なのかなと思います」

 手本となる姿勢を示すことに加え、若い選手たちへの目配りも忘れない。気がついたことがあれば、自身の経験を参考にしながら助言を送る。

 とりわけ気にかけている選手の一人が、桑原だ。横浜スタジアムのロッカーは隣どうし。ガッツマンの気持ちの上下は、横にいる大和にダイレクトに伝わってくる。悔しさのあまり熱くなっていると見れば、寄り添い、諭すように語りかける。

 大和は「クワは自分とすごく似てる部分がある」と話す。

 2014年、タイガースのレギュラーだった大和は日本シリーズの舞台を経験した。ホークスに敗れたが、その年、自身は中堅手としてゴールデングラブ賞を受賞した。

 桑原もまた、レギュラーだった2017年に日本シリーズに出場し、ホークスに敗れた。個人としては、中堅手としてゴールデングラブ賞を初受賞した。

 その後の軌跡も重なる。大和は言う。

「自分は日本シリーズに出て、ゴールデングラブを獲って、でも次の年が全然ダメだった。レギュラーだったのに、なかなか試合に出られない状況になって。クワもいっしょなんですよ」

 だから、伝えたいことがあった。あるとき「お前を見てると、自分を見てるみたいだわ」と声をかけた。

 大和は苦境に陥った当時、どこかあきらめに近い気持ちに襲われていた。「もう、いいや」。若く、逆境を跳ねのける強さがまだなかった。

「自分はそうやって、いい方向には行かなかった。クワには『自分みたいになってもらいたくない』って思うんです。だから、自分にも同じようなことがあって、そのときはこうだったよ、という話をしました。やっぱりクワのいいところは伸ばしてあげたいし、もっともっといい選手になれると思うので。クワに対しては、ちょっといまのままじゃダメだなと思ったら、(昂ぶりを)抑えるような感じで話しますね」


「ただチームが勝つことを考えて」


 若い選手たちへ助言を送るのは、おそらく大和本人のためでもある。年下の奮起、突き上げが、自身の成長を促す最高の刺激になるからだ。

「常に自分は年下の子たちから刺激をもらいながら野球をできてますし、そういう選手が出てくると、まだまだ自分もやらないといけないんだって思えます。若い子たちを見て『自分もがんばらないとな』って、いつも思いますね」

 プロの世界に足を踏み入れてから16年目。積み上げてきた経験が導く答えはシンプルだ。現在のチーム状況や、残りのシーズンへの意気込みを尋ねられると、短く言った。

「チーム状況がどうあれ、毎日、毎日、やることは変わらない。一人ひとりがやるべきことをやれば、その結果は必ず出てくると思います。自分としても、ただチームが勝つことを考えてやるだけです」

 遊撃手の相次ぐ故障離脱もあって、大和は以前に増して活躍が期待されている。これから始まる日本生命セ・パ交流戦。頼れるベテランの華麗な守備と勝負強い打撃が、チームの大きな武器となる。

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写真=横浜DeNAベイスターズ
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