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最後まで集中力を研ぎ澄ませ王者・慶大に一矢報いた早大が体感した「一球入魂」の真髄

 

「きれいなヒットはいらない」


早大の主将・丸山壮史は慶大2回戦で2安打2打点。チームリーダーが「一球入魂」を体現し、勝利に貢献した。チームは5位も、今秋につながる春の最終戦だった


 キャプテンが発信した言葉。秋の雪辱を誓う上で、チームの大きな力となった。

 5月29日、東京六大学リーグ戦。早大は慶大1回戦で敗れ、5位が決まった。すでにこのカードを迎える前にライバル・慶大が3季ぶりのリーグ制覇を決めており、昨秋の覇者・早大としては一矢を報いたいところだったが……。残すは、翌30日の2回戦のみである。

 1回戦後、早大の活動拠点である安部寮に戻ると、就任3年目の小宮山悟監督はミーティングでこう言った。

「本来、持っている実力を、いかにゲームで発揮するか。1週目からの課題が、克服できていない。(開幕から)この2カ月間、何をしてきたんだ! と。とにかく、意地を見せる。秋につながる試合にするんだ!!」

 小宮山監督が去った後、主将・丸山壮史(4年・広陵高)は、部員の前でこう告げた。

「1日で技術は変わらない。でも、気持ちの部分は変えることができる。闘志を前面に出していこう、と。何としても、食らいつく」

 丸山は1回表に先制打を放ち、チームに勢いをつけた。2回裏に追いつかれたが、4回表には四番・岩本久重(4年・大阪桐蔭高)が勝ち越しソロを放ち、なおも、今井脩斗(4年・早大本庄高)の適時二塁打で加点した。粘る慶大はその裏に1点。3対2と早大がリードしたまま終盤へ。早大は8回表一死満塁から丸山の二ゴロの間に、貴重な追加点を挙げる。丸山がたたきつけた打球は、大きなバウンドとなった。「きれいなヒットはいらない。泥臭いプレーが一番大事」。まさしく、技術ではない、気持ちでもぎ取った1点である。

 早慶戦を前に、チームは危機だった。エース右腕・徳山壮磨(4年・大阪桐蔭高)が右肩に不調を訴え、慶大1、2回戦とも先発回避。2回戦は今春、リリーフ専任だった右腕・山下拓馬(4年・早大本庄高)がリーグ戦初先発。5回途中まで粘投し、徳山、左腕・原功征(3年・彦根東高)、そして9回は前日に7イニングを投げていた右腕・西垣雅矢(4年・報徳学園高)が締めている(4対2)。

 小宮山監督は「4年生が頑張った。強い慶應と互角に戦えた。夏に鍛えて、秋には見違える姿が見られると思います。楽しみに待っていてください」と、報道陣に語りかけた。

 V奪還へのポイントは? 指揮官は続けた。

「グラウンドに立って、自分の力を発揮するには、何が必要なのか? 普段の練習から、真剣にボールを追いかけることができるか。歴代の先輩からつないできた『一球入魂』ができていない。飛田先生(穂洲、元監督ほか)、石井連藏(元監督、小宮山監督の早大3年時からの恩師)からつないできた精神的な部分を変えてはならない。早稲田の学生に伝えていくことが、与えられた使命。でなければ、監督になった意味がない。そこに、邁進する」

部員たちが掲げる方針を尊重


 今年のチームスローガンは「一球入魂」。現役学生は、極端に言えば、十字架を背負った。小宮山監督に言わせれば、早稲田大学野球部としては「一球入魂」は当然の考えであり、あえてモットーにするものではないという。そもそも、監督就任時から「早稲田には『一球入魂』しかない」と、スローガンを設定すること自体にも否定的だった。しかし、指揮官は学生主体での野球部運営を理想とする根底があり、部員たちが掲げる方針を尊重した。

 慶大2回戦。早大ナインは2時間49分、最後の1球まで、集中力を研ぎ澄ませた。何をすれば勝てるのか、早慶戦で体感することができたはずだ。

「安部球場=神宮球場」

 つまり、試合のための質を高めた練習にこだわる。グラウンド外では自らを律し、野球につながる学校生活、私生活を過ごす。振り返れば昨秋、6勝(0敗)を挙げてリーグ優勝の原動力となった前主将・早川隆久(現楽天)は、小宮山監督が追い求める「自律」を実践していた。指揮官は厳しい夏を、学生とともに過ごす覚悟を固めた。4年生は「一球入魂」の真髄を、3年生以下の後輩へ伝えて、卒業しなければならない。

文=岡本朋祐 写真=矢野寿明
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