「次につなぐというのは変わらない」
交流戦に入り、7勝5敗3分と息を吹き返しているのがDeNAだ。
オースティン、ソト、
佐野恵太、
宮崎敏郎、ドラフト2位・
牧秀悟と打線でタレントはそろっている。下位にいる
大和もチャンスに強い打撃で殊勲打が目立つ。相手からすれば息の抜けない打線で、キーマンになっているのが、「二番・捕手」で固定されている伊藤光だ。
今年は3月に左ふくらはぎの肉離れで出遅れた。ファームでリハビリ生活を送っている中、チームは
嶺井博希、
戸柱恭孝、
高城俊人と捕手に据えたが、3、4月で6勝21敗4分と大きく負け越して最下位に低迷。しかし、伊藤光が5月21日の
ヤクルト戦(神宮)から復帰すると雰囲気がガラッと変わった。スタメンマスクをかぶった試合は8勝6敗3分。プロ14年目のベテランは巧みなリードで投手の良さを引き出し、二番の打順では犠打、エンドランと首脳陣が求める要求に応じた器用な役回りで粘り強く四球で出塁もする。
伊藤光は「キャッチャーが二番に入るということでちょっと注目されていますけど、普段打っている七番や八番と、二番の役割ってそんなに変わらないと思っているんです。ないとは思いますけど、ぼくが仮に四番に入ることになっても、それで長打力が増すわけじゃないし、やることは同じ。塁に出ること、次につなぐことっていうのは変わらない」と強調する。常に冷静な扇の要は今後の逆襲に向け、さらに存在感が増していくだろう。
同じく「二番・捕手」で打線の潤滑油になっていたのがヤクルトの
中村悠平だ。当初の構想では
青木宣親が二番だったが、新型コロナウイルスの濃厚接触者の可能性があったとして開幕して間もなく登録抹消され、「緊急措置」として中村が二番に抜擢された。だが、小技が得意で打撃好調だったことから青木復帰後も二番での起用が続く。交流戦の途中から青木が二番に入り、中村は下位に入ることが多くなったが、二番でも起用できるという選択肢ができたのは攻撃の幅を広げる上でチームにとって大きなプラスアルファだ。
アグレッシブな打撃ができる
一時期、ヤクルト・中村も「二番・捕手」でスタメン出場が続いた
野球評論家・デーブ大久保氏は週刊ベースボールのコラムで、中村が二番で好調をキープしていた理由について以下のように分析していた。
「実は八番打者というのは制限がめちゃくちゃ多い。理由は、九番に投手が入ることが圧倒的に多いからです。二死で回ってきたときに簡単にアウトになると、次の回の先頭が投手で、相手に簡単にアウト1つあげることになるし、二死でチャンスが来ると打たないといけない、という負のプレッシャーが掛かります。しかし、二番は逆に攻撃的なプレッシャーはありますが、八番を打っていた打者にすれば、かなりアグレッシブな打撃ができるはずなので楽しさがあると思います。そういう部分が中村の二番成功につながっていると思います」
パ・リーグに目を移すと、
西武の
森友哉も5月から「二番・捕手」での起用が増えている。5月下旬に本来の二番、
源田壮亮が新型コロナウイルスの陽性判定を受けて戦線離脱したこともあるが伊藤光、中村と違って小技やチーム打撃を求められるのではなく、初回から大量得点を狙う強打の二番としての期待が大きい。
捕手が二番でスタメン起用されるのは物珍しく感じるが、名将として知られた
野村克也氏が「捕手はグラウンドの監督」と言っていたのを思い浮かべると、戦術眼が優れた捕手を二番に据えるのは理にかなった戦略と言えるだろう。伊藤光、中村、森だけでなく、今後はほかの球団でも捕手が二番で起用される可能性は十分に考えられる。
写真=BBM