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【MLB】調子が悪くても崩れない、特筆すべき今季のダルビッシュの安定感

 

長いシーズンの中で、登板日の体調によって、投球内容なども変わってくる。それでも冷静な投球を心がけ、常に最善の投球をしているダルビッシュ



 パドレスのダルビッシュ有投手は開幕戦こそ4失点だったが、以後9試合は1失点が7度、無失点が1度、2失点が1度と安定している。悪い試合がない。今年がメジャー10年目だが、今までこんなことは一度もなかった。昨季7試合連続で1失点以下だったが、それをも上回る。

 結果彼が先発した試合でチームは9勝1敗。唯一の負け試合はクレイトン・カーショーと投げ合ったドジャース戦で、そのときも7回1失点だった。なぜここまで安定しているのか。勝負におけるメンタル面の優位性について、彼が苦しんでいた時期に何度か口にした例えがある「片方が銃を持っていて、相手は持っていない。当然銃を持っている方は精神的に優位に立てる」。

 今の彼にはカッター、スライダーなど多彩な変化球に加えて98マイル(約157キロ)の真っすぐもある。圧倒的な武器を持つ。それで2020年は好結果を出した。一方で21年は本人が「気持ちが悪かった」というようにキャンプ中からピッチングフォームがしっくり来なかった。自分の投げたい球を投げられていなかった。それでも打たれない。ここまでの試合を見て、試合後の話しを聞いて、メンタルの強さでカバーしており、武器に不安があっても冷静に対処しているように見える。

 5月5日のパイレーツ戦、「初回から体が重くて、どうやって投げていこうかと考えていた」と明かした。その前の登板で初めて球数が100球を超え、通常の中4日の休みだけだったからだ。パイレーツは4月12日の試合で7回3安打1失点に抑えたが、この日は6回途中まで本塁打を含む6安打。それでも辛抱して2失点だった。続く12日のロッキーズ戦。高地で変化球が曲がらないクアーズ・フィールド。ダルビッシュもカブス時代に2試合登板、防御率7.59だった。

 しかしこの日は、初回二死二塁のピンチに四番ストーリーにツーシームを中前打とされ先制点を許しただけ。以後は「真っすぐが良くなくてカットボールとスライダーを多めに投げました」と言う。「曲がり球でも大丈夫。僕から見てホームプレートの左側は曲がる。ただ左打者へのバックドアとかプレートの右側は曲がらない」と冷静に投げ分けた。

 デーゲームで身体にキレがなかったが「そういう状態でも1失点。大人になったなと思う」と笑った。しっくり来なかったフォームが、前夜のシャドーピッチングのおかげで「全部の球が良かった」と話したのが17日のロッキーズ戦。7回10奪三振の会心のゲーム。しかしながら23日、サンディエゴでのマリナーズ戦では「身体が元気ではなかった」と7回7安打。「妻が朝ご飯を用意してくれたけど、あまり食べられず。球場に来てバナナを食べた」と振り返る。

 エネルギーが足りない分、真っすぐ系は16球で全体の17パーセントと、今季平均の25パーセントより少ない。代わりに変化球の緩急を使った。6回表、ヒットを打たれれば勝ち越しを許すピンチ。打者は五番ゴドイ。それまではスライダーで打ち取っていたが、カッターで勝負し「あの左打者にはスライダーを結構投げて意識しているので、カッターは絶対に詰まる」。二塁手正面のゴロで併殺と狙いどおりだった。

 どんなに良い投手でも、シーズン中33試合も登板すれば、調子の悪い日が少なからずある。だが今のダルビッシュはそんなときでも気負わず冷静に試合を作る。6月6日時点で36勝とリーグトップのパドレスをけん引している。


文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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