解説者が試合中「先取点を取ってもらったので、この回は0点で抑えたいですね」と言うことがよくある。投手の登板後、「点を取ってくれた次の回を抑えられなかったのが……」というコメントもよく聞く。野球では「試合の流れ」という言葉を使う。形で見られるものではないし、データとして表れるものでもない。しかし、点を取ってもらった後の失点は明らかに相手チームの士気が上がるのも事実だ。
そこで味方が得点し、先発投手が直後のイニングを0で抑えたか、失点したかをデータ化してみた。
相手に流れを渡さない投球
まずはセ・リーグで、規定投球回以上+そのシチュエーションが15回以上ある投手(無=無失点、失=失点、率=0点に抑えた率、カッコ内は失点の内訳で、同=同点、越=勝ち越し、逆=逆転、イニング途中交代も含む。6月20日現在)。
投手 球団 無 失 率 (同 越 逆)
柳裕也 (中)15 2 88.2%( 2 0 0)
秋山拓巳 (神)14 2 87.5%( 0 0 0)
青柳晃洋 (神)13 2 86.7%( 1 0 0)
ガンケル (神)13 2 86.7%( 0 1 0)
小笠原慎之介(中)16 4 80.0%( 2 0 1)
森下暢仁 (広)12 3 80.0%( 1 0 0)
西勇輝 (神)15 4 78.9%( 0 0 2)
小川泰弘 (ヤ)16 5 76.2%( 0 1 1)
濱口遥大 (デ)12 4 75.0%( 3 1 0)
高橋優貴 (巨)12 5 70.6%( 1 0 0)
大野雄大 (中) 6 3 66.7%( 1 0 0)
伊藤将司 (神)12 6 66.7%( 3 0 0)
サンチェス (巨)10 6 62.5%( 1 0 2)
戸郷翔征 (巨)15 10 60.0%( 5 0 1)
リーグ2位の防御率2.31の中日の柳裕也は17回中失点したのは2回だけだ。今季初登板となった3月27日の
広島戦(マツダ広島)、初回に味方が1点先制したが、その裏先頭の
田中広輔に一発を浴び同点に追いつかれた。6月8日の
楽天戦(楽天生命パーク)も4回表に先制したが、その裏
島内宏明に一発を打たれ同点とされた。この2試合はともにその後失点し敗戦投手となったが、それ以外は無失点に抑え5勝と好成績を挙げている。無失点率は88.2%と高い。
阪神の先発陣は無失点率85%以上が3人いて試合の流れを相手に渡さないことがチームの独走につながっているとも言える。3人ともに防御率は2点台で、青柳晃洋はリーグトップの2.17をマークしている。
一方、
菅野智之に次ぐ柱として期待されている巨人の戸郷翔征は25回得点を取ってもらっているものの、そのうち10回は失点している。戸郷は12度先発しているが、初回に味方が得点してくれたことは6回。そのうち5回は次のイニングに失点した。6月12日の
ロッテ戦(ZOZOマリン)は3点先制し2失点だったが、残りの4回はいずれも1対1の同点に追いつかれている。打線の奮起でリーグ最多タイの7勝は挙げているものの、防御率は4点台。中盤から後半にかけては、好投手との投げ合いも十分にあるので、この「クセ」は解消したいところだ。
ほぼ完ぺきに抑えているマルティネス
続いてはパ・リーグのランキング(セ・リーグ同様の条件)。
投手 球団 無 失 率 (同 越 逆)
マルティネス(ソ)17 1 94.4%( 0 0 0)
伊藤大海 (日)16 1 94.1%( 0 1 0)
和田毅 (ソ)15 1 93.8%( 0 0 0)
山岡泰輔 (オ)12 1 92.3%( 0 0 0)
二木康太 (ロ)15 2 88.2%( 0 0 0)
宮城大弥 (オ)20 3 87.0%( 1 0 0)
高橋光成 (西)14 3 82.4%( 1 1 0)
早川隆久 (楽)13 3 81.3%( 1 0 1)
則本昂大 (楽)12 3 80.0%( 0 1 0)
上沢直之 (日)16 5 76.2%( 0 0 0)
山本由伸 (オ)15 5 75.0%( 1 0 0)
涌井秀章 (楽)18 6 75.0%( 1 1 0)
美馬学 (ロ)13 5 72.2%( 0 2 0)
小島和哉 (ロ913 5 72.2%( 3 0 0)
石川柊太 (ソ)12 5 70.6%( 1 1 0)
岩下大輝 (ロ)10 5 66.7%( 0 1 0)
加藤貴之 (日)10 7 58.8%( 1 0 1)
今井達也 (西)11 8 57.9%( 2 1 1)
岸孝之 (楽) 9 7 56.3%( 2 1 2)
来日が遅れ一軍合流が遅れたソフトバンクのマルティネスは17回中失点したのはたったの1回。5月29日の巨人戦(PayPayドーム)で、5回に味方が3点を追加し7対2とし次の回に1点を失ったが、試合の流れが変わるほどのこともなくほぼ完璧に得点した次のイニングを抑えている。規定投球回には達していないが、防御率1.94、5月の月間MVPも獲得した。また
日本ハムのルーキー・伊藤大海も16回中失点したのはたったの1回だ。5月21日の
西武戦(メットライフ)、5回表に1対1の同点に追いついた直後、2点を失い降板し後続も打たれ5失点。防御率2.77、低迷しているチームの中で4勝をマークし粘り強いピッチングを見せている。
56.3%と数字が悪いのが楽天の岸孝之。3月30日、今季初登板したロッテ戦(ZOZOマリン)で完封と最高のスタートを切ったが、4月中盤以降、3点取られて逆転されることが2回、同点にされたことが2回、勝ち越されたことが1回と完全にリズムを崩している。大混戦のパ・リーグを抜け出すためにはキーとなる投手で復活が期待される。
今回は先発投手のデータを調べたが、序盤から中盤といえども得点した直後を無失点に抑えている投手はやはり好成績につながっている。「試合の流れ」という意味では、打者陣に与える影響も少なからずあり大事なファクターといえるだろう。
文=永山智浩 写真=BBM