週刊ベースボールONLINE

背番号物語

【背番号物語】加藤博一「#75〜#44」7つの背番号を駆け抜けた韋駄天。「盗塁で背番号の数を超えてやる!」

 

ブレークは「32」


阪神時代の加藤


 チームを移籍しても同じ背番号で通す選手がいる一方で、移籍だけでなく同じチームでも背番号の変更を重ね、いくつもの背番号を渡り歩く選手もいる。前者には、尊重されるだけの実績がある選手が多い。後者は対照的だ。なかなか実績を残せないまま移籍となるなど、背番号を自身の象徴にまで昇華させるタイミングもないまま現役を引退することが少なくない。加藤博一も、当初は後者の1人だった。着けた背番号は7つを数える。だが、その7つ目のナンバーでキャリアハイを迎え、最終的に21年もの長きにわたってプレーを続けた韋駄天だった。

【加藤博一】背番号の変遷
#75(西鉄1970〜72)
#67(太平洋1973)
#35(太平洋1974〜75)
#32(阪神1976〜80)
#8(阪神1981〜82)
#22(大洋1983)
#44(大洋1984〜90)

 最初のチームは西鉄(現在の西武)。ドラフト外の入団で、与えられた背番号は「75」だった。大きな背番号で活躍する選手も増えてきた近年も指導者のナンバーだが、当時、1年目から「75」を与えられるということは、チームから期待されていないのに等しかったといえるだろう。それでも加藤はスイッチヒッターに挑戦するなど試行錯誤を重ね、3年目に代走で一軍デビュー。だが、3試合の出場に終わり、チームが太平洋となって背番号も「67」と少しだけ若くなり、1年で「35」と一気に小さくなったが、太平洋では一軍の出場もないまま阪神へ移籍する。1975年オフのことだった。

 どの背番号で加藤の印象を残しているかはファンによって分かれるかもしれないが、それでも阪神へ移籍して以降の背番号になるだろう。阪神で背負ったのは「32」。プロ8年目の77年には7試合の出場で、ようやく一軍で初安打、初盗塁を決めている。翌78年は31試合の出場。そしてプロ10年目となる79年、ついにブレークを果たす。この79年は、江川卓がドラフトの“空白の1日”で巨人と契約して空前の混乱を巻き起こし、最終的に阪神を経て巨人に入団したシーズン。加藤がプロ初本塁打を放ったのは、この江川からだった。

 プロ入りの経緯で“悪役”となった1年目の“怪物”をプロ10年目の“苦労人”が打ち崩す姿は、阪神と巨人の“伝統の一戦”という構図と相まって痛快に映り、またキャラクターもあって加藤は一躍、人気者に。翌80年には初めて規定打席に到達してリーグ5位の打率.314、シーズン7本塁打のうち2本塁打は江川からと“江川キラー”ぶりも健在で、リーグ2位の34盗塁。これでオフには念願だった「8」への変更を果たすが、そこから加藤は故障もあって失速、82年オフには大洋(現在のDeNA)へ移籍となる。自身6つ目、新たな背番号は「22」だった。

新人に「22」を譲って「よいよい!」


大洋では最後に「44」を着けて快足を飛ばした


 大洋1年目の83年は80試合に出場したが、オフに「22」を剥奪される。新人の銚子利夫に「22」を与えるためで、加藤も最初は「だったらクビにしてくれ」と激怒したものの、すぐに気持ちを切り替える。自身7つ目、そして最後の背番号は倍の「44」。縁起が悪いと言われることも多いナンバーだったが、これを加藤は「よいよい!」と読み、「盗塁で背番号の数を超えてやる!」と意気込んだ。

「44」1年目、プロ14年目の84年は109試合に出場したものの、キャリア年数と同じ14盗塁。だが、迎えた85年、早くも目標を達成する。加藤は高木豊屋鋪要の間に挟まる二番打者に定着。“スーパーカートリオ”と呼ばれた3人はダイヤモンドを駆け回り、その“2号車”として加藤は自己最多の129試合に出場してリーグ3位の48盗塁に加え、リーグ最多の39犠打をマークする。その勢いのまま翌86年の前半戦も好調を維持して初めて球宴にも出場したが、後半戦に入ると自打球で右足を打撲して離脱。しばらく高木の一番、屋鋪の三番は続いたが、加藤のような役割を完遂する新たな二番は現れず、“スーパーカートリオ”は瓦解となった。

 その後はベンチを温めることが増えていった加藤だが、ムードメーカーとしての存在感は白眉。腐らずベンチから声を出し続けて、それほど年齢も変わらないのだが、チームメートから“お父さん”と呼ばれて慕われた。「44」も最後まで変更せず、90年までプレーを続けている。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング