メジャーで粘着物問題が浮上した後、投球に精彩を欠きやり玉に挙げられたコール。彼だけの問題でなく、球界全体の問題として罰則だけではなく、さまざまな角度で取り組んでいく必要がある
英語で「DIRTY LITTLE SECRET」とは知られたくない秘密、きまりの悪い事実といったニュアンスである。メジャーではそういった事が少なからずある。ステロイドがそうであったし、サイン盗みも同じ。そして今回は粘着物など投手の禁止物質である。
不正が疑われても、真っすぐに解決に持って行きづらい。理由は、多かれ少なかれどのチームも誰かがやっていて、昔からあったことでもあり、線引きが難しい。MLB機構側が選手を罰しようとすれば選手会の同意も必要。簡単にはことが運ばない。投手の粘着物の使用については、打者も、投手がロージンだけでなく、日焼け止めや、あるいは松ヤニを使ったとしても、必ずしも文句は言わなかった。
メジャーのボールは滑りやすいから、滑り止めなしで、頭に飛んできたのではたまったものではない。しかしながら実は1試合あたりの死球の数は2007年から17年は、0.31個から0.36個の間で推移していたのに、18年に0.40個を超え、20年が0.46個、21年が0.43個と増えた。
一方で直球や変化球の回転率が急に上がり、バットに当てにくい。粘着物質がコントロールを保つためでなく、空振りを増やす目的で使われている。球団の中にはより効果的な粘着剤を作ろうと化学者を雇うところもある。これでは不公平だと打者から批判の声が上がり、ようやく機構側も取り締まりに本腰を入れた。
新ルールは実施されているが、この話が浮上してきたときに、やり玉に挙がったのはヤンキースのエース、ゲリット・コールだった。6月2日、AP通信はマイナーの投手4人が禁止物質を使ったために10試合の出場停止処分になったと報道したが、コールはその翌日のレイズ戦で5回5失点の乱調、真っすぐの回転率がシーズン平均より急に下がった。
それについてツインズのジョシュ・ドナルドソン三塁手が「急に回転率が落ちたのは怪しい」と言及。実際、コールは17年までのパイレーツ時代はパッとしなかったのに18年、にアストロズに移籍すると、急に真っすぐの回転率が上がり、禁止物の使用を疑われていた。8日会見で質問を受けると「なんと言えばいいか、正直分からない」と言葉に窮している。
ドナルドソンは「コールだけをやり玉に上げるつもりはない。ほかにも12人以上の投手が劇的に回転率が落ちていた」と指摘している。6月9日の試合の後、
ダルビッシュ有はこの問題について「昔からメジャーでは使われているが、機構側は見て見ぬふりをしていた。ただどうしても度を越す人間が出てくる。そしてタイトルや、契約金で迷惑をかける。つけるだけですごい変化球が投げられるというのは行き過ぎ。僕が一生懸命に変化球を考えて、人に教える意味があるのかなと最近は悩みでもあった。ちゃんとした方向に行くことを願います」と話した。
ちなみに筆者はダルビッシュの回転率は5年以上チェックしているが、常にリーグのトップレベルで変わらないのである。
文=奥田秀樹 写真=Getty Images