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[MLB]投手は怒り心頭――早くもルール適用、粘着物質使用問題

 

グラスノーはれまで使用してきた日焼け止めとロジンを混ぜたものを使わず右ヒジを痛めた。MLBがボールを開発中というなら、シーズンにルールを変える必要はなかったのでは……


 MLBを揺るがせる投手の粘着物質不正使用問題。MLB機構が早く動いた。6月15日、投手が粘着物質を不正使用した場合、当該試合での退場処分と10日間の出場停止処分を科すと発表。21日の試合から対象となった。

 ステロイド問題のときは、2003年シーズンいっぱいかけて実態調査を進め、04年から厳しい薬物テストを実施したのだが、今回はずいぶん早い。機構側の説明は春のキャンプ中に警告を出したのに、開幕後回収した公式球の多くに使用の痕跡が見られ、スタットキャストの回転率などのデータを見ても、昨年より不正使用が減るどころかむしろ増えていたため。ロブ・マンフレッドMLBコミッショナーは「データなどに基づき、グラウンドでの公正を期すためにルールの適用が必要と判断した」とコメントを出している。

 これに対し怒り心頭なのが現場の投手たち。レイズのタイラー・グラスノーは8日のナショナルズ戦でこれまで使用してきた日焼け止めとロジンを混ぜたものを使わず、結果腕に負担が出て、右ヒジじん帯を痛め、負傷者リスト入りした。「ケガをしたのは100パーセントそのせい。シーズンの途中で違うことをやれというのはおかしい」と会見で訴えている。

 新ルールではロジン以外の使用は認めていない。しかしながらアスレチックスのボブ・メルビン監督も「寒い夜、ロジンだけでは難しい」と証言するように、ロジンだけでは不十分。日焼け止めなら、大問題の強力粘着物質「スパイダータック」のように回転率が異常に増えることもない。しかしながら今後試合中に取り締まっていく上で、その場にいる審判が日焼け止めなのかそれに似せた強力な粘着物質なのか見分けるのは困難だ。

 そのためロジン以外はダメとなったのだが、シーズン中の変更はやはり無茶だ。滑り止めがなく、握るのにより握力が必要なら、グラスノーのようにケガをするかもしれない。シーズン中に負担のかからない投げ方に調整するのは容易ではない。あるいは滑って、頭部への危険な死球が増すかもしれない心配もある。

 ダルビッシュ有が15日の試合後にあらためて提言したように「ボールを変えることが先」だと思う。そんな中、メッツのピート・アロンソ一塁手が興味深い指摘をしていた。MLB機構はオフの有力FA選手の顔ぶれを見て、シーズンごとにボールを操作してきたというのだ。19年のオフはFA大物投手が多かったため、投手の成績が下がるように飛ぶボールを採用した。このオフは遊撃手はじめ大物野手が多いから飛びにくいボールにしたと。「選手の間で話しているし、みんなもそれを信じている」と言う。

 筆者は長年なぜMLBがNPBのような滑らないボールを作れないのかが不思議だった。微妙に一つひとつ形も違う。NPB関係者が参考になるようMLB関係者に手渡したりしてきたのに一向に進まない。アロンソの言うように、年俸高騰の抑制にグレイなままにしておきたかったのかもしれない。

 だがようやくMLBは動き出した。ルールを適用するとともに、関係者によると滑りにくいボールとロジンに代わる粘着物の開発にも本腰を入れているそうだ。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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