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背番号物語

【背番号物語】谷沢健一「14」から「41」に変更したのは「凡人の中に1人だけ優れた人物がいるという意味ですね」……?

 

板東英二の後継者



 科学は有能だが、万能ではないのかもしれない。タイムマシンに乗って当時に戻れば解明できるのかもしれないが、科学はタイムマシンの発明には至っていない。プロ野球にも科学のメス(?)が入り始めた1980年代、アキレス腱痛で戦線を離脱して、さまざまな治療でも改善の兆しが見られない中で、日本酒マッサージという独特の方法で奇跡的な復活を遂げたのが中日の谷沢健一だった。谷沢に日本酒マッサージを施した老人は「旧日本軍の特務機関員、つまりスパイだったんです」(谷沢)など、この逸話に触わり始めると背番号の話ができなくなるので、これについては別の連載で。

 谷沢はドラフト1位で70年に入団した外野手。アキレス腱痛からは足の負担もあって一塁へ回った。1年目からレギュラーとなって新人王に輝いた左のスラッガー。アキレス腱痛から復活を遂げてからは長打力にも磨きがかかり、あぶなっかしさも持ち味(?)だった大島康徳宇野勝ら右の長距離砲とともに、安定感あり、長打ありという左の谷沢がいた中日のクリーンアップは、中日ファンだけでなく、当時を知るプロ野球ファンには魅力的に見えたことだろう。谷沢は中日ひと筋を貫き、86年までプレー。背負った背番号は「14」と「41」だった。

入団から6年間は背番号「14」を着けた谷沢


【谷沢健一】背番号の変遷
#14(中日1970〜75)
#41(中日1976〜86)

 異色の逸話を持つ谷沢だが、背番号の世界でも異彩を放つ。最初の「14」も1年目の外野手が着けるのは珍しい。巨人で永久欠番となっている沢村栄治を筆頭に投手が圧倒的なナンバー。ただ、中日では比較的、野手が多い系譜で、54年に四番打者として初の日本一に貢献した児玉利一が筆頭格だ。「15」で永久欠番となった“二刀流”の西沢道夫が戦前に着けているが、このときは投手。谷沢の前任は板東英二だ。タレントとしての活躍に上書きされた面もあるが、板東は徳島商高で甲子園を沸かせた右腕で、中日では4度の2ケタ勝利を挙げている。

「14」でレギュラーとなった谷沢だったが、「14」で打率3割はなし。76年に数字を引っくり返して「41」に変更する。

「何かをチェンジしなきゃ、というのはありました。気分転換で考えたのは背番号です。実は入ったときから中日新聞の会長に背番号を変えたほうがいいと言われていたんですよ」(谷沢)

21世紀には谷沢の逆を行った後継者も


76年からは「41」に変更し、引退した86年まで背負った


 背番号の変更については、2013年に行われたインタビューに答えた谷沢のコメントがあるので、それを紹介する。

「昭和50(1975)年の契約更改で、(中日新聞の)会長から手紙が来ているという。そこに、また背番号が変えたほうがいいと書いてあった。それがね、116番とか118番とか書いてあった。なんだ、これは、と(笑)。その後、京都のお坊さんに相談したら、そんなに変えたいなら、引っくり返して『41』がいいぞ、と言われたんです。中国の四柱推命からすると『41』は『鶏群の一鶴』だと。鶏の中に1羽、鶴がいるということで、凡人の中に1人だけ優れた人物がいる、という意味ですね。でも当時は説明が面倒なので『いいよ(14)』から『よい(41)に変えた、って言っていました」

 これを逐一、説明するとなると、確かに煩雑そうではある。だが、これが吉、いや大吉となる。「41」1年目の76年、谷沢は打率.355で初の首位打者に。この76年は通算3085安打の張本勲が巨人へ移籍したシーズンで、谷沢は張本とデッドヒートを展開して、張本の打率.35477に対し、終盤から張本を猛追した谷沢が打率.35483。わずか6糸の差での戴冠だった。アキレス腱痛から復活、カムバック賞を贈られた80年には打率.369のハイアベレージで2度目の首位打者。それまでは20本塁打を超えたのは1度だけだったが、この80年からは5年連続で上回り、84年にはプロ15年目にして自己最多の34本塁打を放っている。99打点も自己最多で、166安打はリーグ最多だった。

 谷沢は通算2062安打で引退。「41」は鳥越裕介ら野手も着けたが、ほぼ投手の系譜だ。中日にとって特別なナンバーとなってもおかしくない「41」だが、2000年代には朝倉健太浅尾拓也ら好投手を輩出している。途中で「18」を挟んではいるものの、谷沢とは逆に「41」に始まり「14」で終わったのが朝倉だ。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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