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父・前田智徳氏譲りの不屈の精神。4強進出慶應エースは「自分の土俵に引っ張り込んで、うまく立ち回る」

 

球場の行き帰りで松葉杖をついて歩行


慶應義塾高で背番号1を着ける176センチ右腕・前田晃宏は元広島前田智徳氏を父に持つ


 ノーシードの慶應義塾高が神奈川大会で4強進出を決めた。横浜清陵高との準々決勝(7月24日、保土ヶ谷)。序盤から優位に試合を進め、2回を終えて6対0。3回表に3点を返され、なおも一死満塁。このピンチで、2番手として救援したエース・前田晃宏(3年)が後続2人を抑え、相手打線の勢いを止めた。慶應義塾高は3回以降も攻撃の手を緩めず、14安打15得点の5回コールド(15対3)で、準決勝へと駒を進めた。

 背番号1を着ける前田は、元広島で2119安打を放った前田智徳氏を父に持つ。最後の夏を前にしてアクシデントが襲ったのは6月末だった。練習試合で右ヒザを痛め、前十字靱帯断裂と半月板損傷。電気治療、超音波治療、酸素カプセルなど、可能性を信じて、奇跡的な回復力で夏本番に間に何とか合わせてきた。

 1、3、5回戦、そして準々決勝とも救援登板。長いイニングは難しいが、全幅の信頼を寄せる森林貴彦監督は冷静に見極め、難しい終盤を任せている。マウンドでは一切、弱みを見せないが、コンディションは100がベストだとすれば「0です」と正直に明かす。手術を受けないといけないほどの症状だという。球場の行き帰りで、松葉杖をついて歩行する姿は痛々しいが「試合に入ると、アドレナリンが出る」と、涼しい顔で語る。父は広島の現役時代、右アキレス腱断裂から見事な復活を遂げたが、息子も親譲りの不屈の精神の持ち主だ。

「頼りにしてくれている。送り出されたからには、自分は腕を振っていくだけです」

 ケガもあるが、自身の投球スタイルを熟知。キレのあるストレートと変化球を織り交ぜる。

「東海大相模や横浜のエースに比べると、彼らのほうが圧倒的に上。同じ土俵で勝負するのではなくて、頭を使って、自分の土俵に引っ張り込んで、うまく立ち回るんです」

 この日、東海大相模高の出場辞退が発表された。登録選手17人に新型コロナウイルスの陽性が確認されたため、準々決勝(対藤沢翔陵高)を不戦敗。今春のセンバツ優勝校が、予期せぬ形で夏の終わりを迎えたのである。

 前田は一つひとつ言葉を選びながら言った。

「自分たちも、より気を引き締めていかないといけない。高校野球が最後、こういう形で閉ざされてしまい、悔しいと思います。でも、私たちには、手出しできない領域。自分たちは、自分たちのできることを、一戦必勝でやっていくしかないです。(東海大相模は実際に)戦って甲子園に出たい相手だった。エース・石田君(石田隼都)は中学の(ボーイスの)選抜チームで一緒だったので、投げ合いたかった」

必勝パターンで勢いに乗る戦い


 相手の胸の内を想像すれば、多くを語ることはできない。前田は複雑な表情を浮かべた。しかし、戦いは待ってくれない。

 慶應義塾高は2018年に春夏連続で甲子園に出場。18年秋に県4強に入って以降は、上位進出を逃してきた。新型コロナ禍で満足に練習ができなかった今春は、県大会3回戦敗退と、不本意な戦いが続いた。

「勝てるチーム像がなくて……。コロナで活動も制限され、どのようにして夏へ向けて練習していけばいいのか、苦しい時期でした。そんな中でも主将の金岡(金岡優仁、3年)があきらめずにやってくれました。こうすれば勝てる、という形を示してくれました」

 1回戦屈指の好カードと言われた桐蔭学園高との初戦を逆転勝利で制すと、2回戦では第3シード・光明学園相模原高を撃破。5回戦では第1シードで、今春の関東大会4強の桐光学園高を下した。そして、準々決勝では投打がかみ合っての5回コールド突破である。

 26日の準々決勝では第2シード・横浜創学館高と対戦する。ノーシードから7試合目。誰もがエース・前田の右ヒザの状態を知っている。6試合で49得点の強力打線が援護し、投手陣全員で粘って抑えていくのが、2021年夏の慶應義塾高の必勝パターン。トーナメントで大事である、勢いに乗っているのは確かだ。

文=岡本朋祐 写真=BBM
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