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五月反攻に失敗? 巨人V9に暗雲/週べ回顧1973年編

 

 3年前に創刊60周年を迎えた『週刊ベースボール』。現在、(平日だけ)1日に1冊ずつバックナンバーを紹介する連載を進行中。いつまで続くかは担当者の健康と気力、さらには読者の皆さんの反応次第。できれば末永くお付き合いいただきたい。

長嶋茂雄の特訓の理由


表紙は大洋・平松政次



 今回は『1973年5月21日号』。定価は100円。

 前号と今号の2号にまたがって掲載されていた2つの巨人-中日3連戦について書いてみよう。

 まずは4月27日、中日球場(のちのナゴヤ球場)でのゲーム。
 名鉄の交通ゼネストのため巨人の球団到着が66分遅れ、試合開始が20時となる。この日の全国的な交通ストは事前に分かっており、東京都内ではデパートが休業、小中学校が休校(初出修正。すみません)。プロ野球もこのカード以外すべて中止となっている。

 それでも中日はドル箱カードの開催を決断。しかも、15時半には開門している。

 試合は巨人先発・堀内恒夫、中日先発・稲葉光雄がともにKOされる波乱の展開。本塁打が飛び交う大乱戦となったが、巨人が広野功の代打逆転満塁弾もあって、13対6で勝利。

 試合終了は23時を回り、待たされたうえに大敗でストレスがたまった中日ファンが客席から物を次々投げ入れ、騒然とした雰囲気になる。巨人ナインは警備員に囲まれ、バスで帰路に就いた。

 その後、巨人選手会から中日フロントに「中止にすべきだった」と抗議。フロントから「他球団の営業権に触れる越権抗議」と言い返す騒ぎとなった。

 それでも2戦目は中日が三沢淳のプロ初完投勝利、3戦目は渋谷幸春の完封で中日が2勝1敗と勝ち越した。

「ひどい」
 スコアボードの0行進にため息すら聞こえない。

 5月4日から今度は舞台を後楽園に移しての中日戦。1、2戦目に敗れた巨人は、3戦目、渋谷の前に、またも完封負け。これで中日3連敗。その前の大洋戦から4連敗だ。5月に入って1勝4敗。5位に転落し3日目だった。

「ハードラック」
 長嶋茂雄が呆然と座り込む高橋一三に声をかけた。高橋はこの試合で通算1000奪三振を達成。1失点に抑えながらも、いわゆるスミイチで敗れた。

 川上哲治監督は、
「渋谷にうまくやられたというより、うちが打てな過ぎたな」
 と憮然とした表情で語った。

 4月は6勝7敗。もともとスロースタートのチームだが、過去の8連覇で4月の負け越しはなかった。
 
 どん底の理由の一つは、エース・堀内の不振である。不振が続き、5月4日、二軍落ち。

「一から出直さないとやっぱりダメです。今までは試合で徐々に取り戻そうとしたけれど、このままではかえってチームに迷惑をかける。多摩川でたっぷり走り込みと投げ込みをやる」
 と語った。

 もちろん、堀内だけの責任ではない。打線もひどい。チーム打率はリーグ5位の.230。川上監督も「投手陣よりも、打線が悪い」と言い、さらに

「選手がベテランにばかりになって、個人の調子ばかりに気を取られている。勝つことに慣れているので、めいめいがどん詰まりのところまで追い詰められないと目の色を変えてくれん。もっとチームの勝利のためにという心構えがほしい」
 と苦言。

 チームを鼓舞する意味もあるのだろう。いち早く“目の色”を変えたのが、長嶋だ。5月2日、試合が雨天中止になると、すぐさま多摩川の屋内練習場へ。1人黙々とバットを振る。

 その後、川上監督をはじめ、ほかの選手もやってきたが、川上監督は長嶋の素振りを見ると、グラウンド整備用のトンボを手に近づいた。

 そして長嶋の正面に立ち、右肩前にトンボを突き出した。普通であれば、バットがぶつかりそうな間隔だが、長嶋はインサイドアウトで体に巻き付くようなスイングをし、当たらなかった。

「よーし、その感じだ。忘れるな」
「はい」

 長嶋の希望もあったというが、川上監督が長嶋に打撃指導するのは2年前の夏以来だった。

 ただ、実は長嶋は、この時点で7試合連続安打、打率.286と調子はそれほど悪くはない。

 特訓の理由を聞くと、
「満足できないからだ」
 と答えた。打率はそこそこ残しているのだが、大洋・平松政次ら速球派に押されているのを感じていたこともある。

「スピードについていけないのは、バットマンの恥だよ」
 果たして、V9なるのか。

 では、またあした。

<次回に続く>

写真=BBM

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