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[MLB]「1971年の野球に戻す」コミッショナーはシフト禁止の意向

 

シフト禁止を打ち出し、昔の野球を取り戻す意思を表明したマンフレッドコミッショナー。果たしてシフト禁止以降はどうなるのだろうか


 オールスターゲームの日。全米野球記者協会の昼食会での恒例のコミッショナー会見。ロブ・マンフレッドは彼が12歳だった1971年の野球への郷愁を口にした。

「50年前、ニューヨーク州北部にある友人の家でオールスターゲームをテレビで見た。その部屋がどんなだったか、レジー・ジャクソンがホームランを打ったことなど鮮明に覚えている。12歳でほかに、こんなに覚えていることはない」。全米の多くの子どもが野球の虜(とりこ)だった。彼は守備シフトの禁止を考えていると続ける。

 今季2Aで実験中。二塁ベースを境に、両サイドに内野手が2人ずつ立っていなければならない。「野球を変えてしまうのではない。私が12歳のころのような昔の野球に戻す。つまりは復元だ。球団フロントも支持している。多くの人が長い歴史の中で楽しんできたゲームに戻し、野球を再創造する」。

 このコラムでも何度も書いたが、MLB機構は野球の娯楽としての価値の低下を危惧している。三振か本塁打かとなり、ゴロがフィールドに飛んだり、走者が塁間を疾走したりといったアクションがめっきり減った。ちなみに71年、試合平均で5.41三振、0.74本塁打、犠牲バント0.46個だった。2021年はここまで平均8.86三振、1.19本塁打、犠牲バント0.16個である。シフト禁止には選手会の合意が必要。果たして選手会はどう反応するのか。

 一方選手会は野球の娯楽としての価値低下は、再建の名の下、真剣に勝とうとしないオーナーが増えているからだと考えている。オフのFA市場、これまでなら一番の目玉商品が消えても、獲得できなかった球団が次の大物の獲得合戦を繰り広げ、その次は3番手、4番手と大金が流れ、選手はFA権の恩恵でリッチになれた。

 だが今は、FA市場に消極的なチームが少なくない。おかげで開幕の時点で、プレーオフは無理というチームが既にいくつか判明している。3番手、4番手のFA選手に良いオファーがないのはアナリティック(データ分析)で、下の方の30代のFA選手に大金を払うくらいなら、若手に切り替えたほうが賢明と証明されてしまったこともあるかもしれない。

 それならそうで、選手が早く調停権やFA権を得られるよう仕組みを変えてもらいたい。そもそも球団は大きく負け越しても、トップのドラフト指名権獲得で救済される。弱くてお客が入らなくても、収益分配制度で赤字は減らしてもらえる。だから真剣に勝とうとしない。

 選手会側はオーナーから選手まで、球団全体がそのシーズンにベストの成績を出そうと全力を尽くさないと娯楽としての価値は上がらないと主張するのである。ご存じのように現行の労使協定は今年12月1日に失効するが、果たしてオーナー側はこういった不満に応えられるのか。

 マンフレッドは「一番に優先するのは、野球を止めることなく(ストやロックアウトがなく)、新しい合意を得ること」と話したが、71年の野球が良いかどうかも含め、分からないことだらけなのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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