「順延になって良かったと思います」
8月13日の第3日は前日に続き、雨天中止。第1試合を控えていた明桜・風間球打は甲子園球場内にある室内練習場での調整を終え、宿舎へ引き揚げた
明桜(秋田)にとっては、気持ちリセットする意味でも、恵みの雨となった。
帯広農(北北海道)との1回戦(8月12日)。明桜は4回を終えて5対0とリードしていながら、雨天によりノーゲームとなった。先発の157キロ右腕・風間球打(3年)は、マウンドがぬかるむ厳しいコンディション下でも、4回無安打投球と対応力の高さを見せた。
ノーヒットノーラン。夏の全国選手権大会の無安打無得点試合は1998年、横浜・
松坂大輔(現
西武、今季限りで引退を表明)が京都成章との決勝で達成したのが最後である。報道陣からその可能性があったことについて問われると、風間は包み隠さず、本音を口にした。
「正直、今日は投げて、そういう記録も作りたかったんですけど……。いつ終わるのかな? いつノーゲームになるのかな? と考えていたんですけど、そこは切り替え、次の試合もしっかり抑えられればいいと思います」
1日順延となった8月13日。試合開始2時間前(午前6時)に雨天中止が発表となった。その後、約2時間、甲子園球場内の室内練習場での調整後、風間はこう語っている。
「本当は昨日、あのまま試合を続けて、終わりたかったんですけど、今日また、試合となって、少し疲れもあった。正直、今日は順延となってくれてうれしい。明日に備えられるので、良かったと思います」
明桜には輿石重弘監督が掲げる合言葉があった。「クリアリング」である。指揮官は言う。
「良い部分は継続して、悪い部分は、何が原因かを分析する。精神的なものも含めてクリアしていくのが、クリアリングです」
前日のノーゲーム後も、輿石監督は「(従来の開幕前の)甲子園練習ができませんでしたので、甲子園練習ができたと思っています。これ(5対0でリード)はもう、忘れます」と、リセットを強調。そして2日連続での順延を受けて「まったくのゼロに戻して、(明日は)最初のスタートを切りたいと思います。今日よりも明日、明日よりも明後日のほうがいい。順延になって良かったと思います」と、努めて前向きに語った。
本当の意味での「甲子園デビュー」へ
風間も十分に「クリアリング」されていた。
「昨日、投げてみてマウンドも感じられた。イメージもつきやすい」
コンディションの調整も万全だ。マイペースと思われる性格が、プラス要素に働いている。秋田から現地入り後は、宿舎とグラウンド、甲子園の往復のみ。そして2日の順延も、ストレスに感じることは一切ないという。
「バス移動も体が張らないように、良い姿勢を心がけています。宿舎ではしっかり休む。睡眠を取っています。退屈になる? 休むのが好きなので、思ったりはしません。疲労を取る工夫? 寝るだけで回復するタイプなので……。寝たいときに寝ています」
前日は雨の影響もあってか、最速は149キロだった。本来は踏み込んで投げるタイプだが、ゲーム中に微調整。「とっさに考えました」。試合開始時はノーワインドアップも、3回からは無走者でもセットポジションに切り替えた。力で押すスタイルよりも、変化球を交え、打者を確実に抑えることを優先したのである。
「ちょっと、力を抜いた部分もあった。自分の思ったようには(ボールが)いっていなかった。今日(試合があれば)はしっかりと、秋田大会のように、力強く投げることを意識していました」
本当の意味での「甲子園デビュー」へ、準備は万全だ。間違いなく、ノーゲームからスケールアップするであろう、風間のピッチングから目が離せない。
文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎