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西武・呉念庭、愛斗“覚醒”の秘密。上本二軍コーチの選手を正しい道へ導く指導法とは?【後編】

 

開幕直後から主力野手がケガで離脱しながら、二軍から昇格した若手、中堅がその穴を埋めた西武。一軍実績が少なかった選手が力を発揮した理由の一つに新任の上本達之二軍打撃コーチの存在があった。上本コーチはいかにして、選手を正しい方向に導いたのか。前編に続き、その指導法に迫る。

捕手だったからこそ


現役時代の上本コーチ


 初めての打撃コーチの大役だ。上本達之コーチも最初から自信があったわけではないだろう。だが、こうして指導した選手が次々と一軍で活躍してくれることで、「取り組みや教えていることが間違っていないんだな」と、逆に、手応えを感じることができているという。「こんなすぐに成長するんだな、と思いました。2、3年かかって、やっとできたとかではなくて、同じ成長を、2、3カ月でできた。上手くなるスピードが実際に上がったというところを、これからも教える立場の人間として追求していきたいです。それによってチーム全体のレベルも高くなると思いますし、選手層も厚くなると思っています」。
 
 そして、同コーチは選手の成長スピードを促進させる上で、コミュニケーションがいかに大切かをあらためて学んだという。今春季キャンプ中、B班では佐藤友亮二軍野手総合兼外野守備・走塁コーチの発案で野手のコーチングスタッフと選手全員、一人ひとりとで個人面談を行った。その際、コーチたちは、選手それぞれが考えていること、感じていることをじっくりと聞いた上で、データや資料を提示し、今後の方向性をともに話し合った。

「『ファームの組織みんなでお前を良くするから頑張れよ』というのが伝わったと思いますし、選手も『この人たちなら大丈夫なんだな』と思ってくれたんだと思います。その面談をきっかけに、みんなの取り組みがガラッと変わりました」

 実際、シーズンに入ってからも、呉念庭愛斗が一軍で活躍する姿に刺激を受け、綱島龍生高木渉など、次々に二軍で結果を出し、一軍昇格のチャンスをつかんでいる。そうした選手たちがあらわに見せる「俺も、俺も」の姿勢に、「初めて打撃コーチという担当を持たせていただいて、『人を動かすのって、やっぱり人で、そういうところも大事なんだな』と、ものすごく勉強になっています」。指導者として何よりも大切なことを教えられた。

 捕手というポジション柄もあったのかもしれない。現役時代から、他の選手の打撃フォーム、投球フォームなどにも非常に興味を持ち、その選手に助言を求められれば的確にアドバイスを送り、成績向上に一役買っていた。当時から、チームメートたちの中で「教え方がめちゃくちゃ上手い」と評判だった上本コーチにとって、『コーチ』という役職はまさに天職と言えよう。

「怒られてばかりでつらい思い出しかないですが、捕手をやらせてもらったこともすごく役に立っていますし、打撃でいろいろ失敗したりや悩んだりしたことも役に立っています」と、本人も自身が経験したことのすべてが引き出しになっていることを実感している。ただ、興味深いことに、「今教えていることに関しては、自分がやってきたことや現役中に失敗したことではないんですよ」と明かす。選手時代、自分が失敗したときには辿り着かなかった“正解”が、現役を終えたタイミングで少しずつ見つかったという。その“正解”を持ちつつ、一方で、人一倍の失敗を積み重ねた経験がある自分だからこそ、選手がなぜ、どう失敗するのか。その傾向が手に取るように分かる。上本コーチならではの選手への寄り添い方ができているのではないだろうか。

自らの役職に強い責任感


 当然、今後も打撃コーチとして、積極的に挑戦を続けていく。昨今、日本野球界もデータを有効活用し、好成績につなげる選手が増えてきた。西武ライオンズでいえば、平良海馬高橋光成がトラッキング・システム『ラプソード』を自費購入し、活躍しているが、いま、ライオンズのファームでは、バットの軌道やスイングスピード、ボールに対しての入射角度などが分かる打撃用のスイング解析システム『ブラストモーション』を導入している。そうした、メジャー・リーグ(MLB)で成果を出しているマシンや練習法などを進んで取り入れ、自らも勉強し、活用していこうとする柔軟性や向上心も、上本コーチの魅力だろう。またそれは、二人三脚で奮闘する高山コーチも然りである。

 若い芽を育て、一軍戦力へと強化する場であるファームは、いわば球団、チームの将来を背負っていると言っても過言ではない。それぐらい大事な組織だからこそ、自らの役職に強い責任感と、大きなやりがいを感じている。

「コーチとして僕が一番大事にしているのは、選手が“何か”を欲しがるときがあるのですが、その瞬間を見逃さないことです。それまでは、こっちから何かを提案したくても我慢して、『あ、今だな』と感じたときにパッと伝えて、それで選手がそのとおりに打ってみたら、芯に当たったりするんです。そのときの、選手がうれしそうにニヤッとした顔がたまらなくて。その瞬間が、僕の一番の喜びです。

 一軍に上がったときに、もう何も言わなくてもできる。そして、一軍の選手を脅かす選手を育てていくことが目標です。例えば、一軍に行ったら、スコアラーの方からチャートを見せてもらい、データなどいろいろ事細かく言ってもらうのですが、二軍のときから勉強していないと、何を言っているのかまったく分からないんです。自分がそうでしたから。そういう部分から、いつ一軍に行っても困らないように指導していきたいと思います」

 五輪も終わり、ペナントレースが再開された。8月16日現在、西武は首位・オリックスと7.5ゲーム差の5位と低迷している。ただ、数字上ももちろん、何よりも西武は毎年この夏場後半からの時期に非常に強いだけに、まだまだ巻き返しは十分可能だ。チームにさらなる勢いをつけるためにも、ここからまた、フレッシュな戦力が台頭してくることに大いに期待したいところだ。中でも、ファームで懸命に打撃改革に取り組む西川愛也の変貌に注目してみたい。

<「完」>

文=上岡真里江 写真=BBM

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