週刊ベースボールONLINE

2021夏の甲子園

前橋育英以来の夏初出場初優勝まであと2勝。勢いに乗る勝ち方が続く京都国際【2021夏の甲子園】

 

センバツの過ちを繰り返さず


京都国際は敦賀気比(福井)との準々決勝(8月26日)でサヨナラ勝利(3対2)。2年生左腕・森下瑠大(右)と強打の3年生捕手・中川勇斗(左)を中心に、攻守にまとまったチームである(写真=高原由佳)


■8月26日 準々決勝
京都国際3x−2敦賀気比

 強いチームには、いろいろな勝ちパターンがある。夏初出場の京都国際はまさに、そのケースに当てはまる。

 前橋育英(群馬)との初戦(2回戦)では2年生左腕エース・森下瑠大が10奪三振で4安打シャットアウト勝利(1対0)。バッテリーを組む四番・捕手の中川勇斗(3年)のソロ本塁打による1点を守り切った。

 二松学舎大付(東東京)との3回戦では、3点リードの9回裏に3ランで追いつかれた(4対4)。チームの誰もが、初出場だった今春のセンバツでの悪夢のシーンがオーバーラップしたはずだ。3月29日、東海大菅生(東京)との2回戦。2点リードの9回裏、森下が集中打を浴び、サヨナラ負けを喫していた(4対5)。

 5カ月後、同じ過ちはしなかった。京都国際は踏ん張った。今大会初の延長に入った10回表、森下が決勝打。142球、12奪三振の熱投で、10回裏の攻撃を無失点に封じた(6対4)。

 初出場でベスト8。敦賀気比との準々決勝では右腕・平野順大(2年)が今大会初登板として先発した。5回無失点に抑え、6回からは森下にリレー。3回戦から中1日。疲労が残っており、本来の下半身を使った投球ができなった。双方無得点で迎えた8回表に2つの死球が絡み、2点の先制を許している。

 ベンチの小牧監督は覚悟したという。

「8回の2失点で、気持ちが切れかけた。もう、ここまでか、と。でもキャプテンと主力選手の中川を中心に『ここからだ!』と持ち直してくれた」

 選手たちは、指揮官の想像以上に頼もしかった。京都国際は8回裏に一死満塁から三番・中川が押し出し四球を選び、四番・森下の一ゴロの間に1点を挙げ、同点に追いついた。9回表は森下が無失点に抑えている。

「正直、調子が良くなくて……。でも、投げる以上は抑えないといけない。気持ちでいきました」

 京都国際は9回裏、敦賀気比に守りのミスもあり、サヨナラ勝ちを収めた(3対2)。崖っぷちから踏みとどまり、準決勝進出を決めている。2試合連続での逆転勝利である。

初陣4強の3つの理由


京都国際のエース左腕・森下は先発ではなかった準々決勝では、四番に入った。二松学舎大付との3回戦(六番)ではソロ本塁打に延長10回の決勝打と攻守でセンス抜群である(写真=田中慎一郎)


 初陣4強の要因は?

 小牧監督は「ここまで来られるだけの実力はないです」と語る。ではなぜ、甲子園で3勝できたのか。3つの理由があるが、実にシンプルだ。指揮官は言う。

「森下と中川のバッテリーを中心に、何が何でも、勝ちたいという気持ちがある」

「センバツの悔しさを晴らしたい。その結集」

「球際の強さがあるから、力以上のものを発揮している」

 京都国際の活動拠点は、長方形の校庭だ。左翼67メートル、中堅70メートル、右翼60メートル。限られた環境でも工夫を凝らし、集中力を高めて練習してきた。その「粘り」こそが、全国舞台での原動力となっている。

 今夏の快進撃を語る上で外せないのは主将・山口吟太(3年)の存在感もある。新チーム結成される前段階の昨年6月、自らキャプテンに立候補。今年の3年生にリーダーシップを執るタイプの選手が見当たらず、手を挙げたのだという。山口は昨秋の公式戦、今夏の京都大会を通じて出場機会はない。プレーではなく、姿勢で見せる。人のために汗をかき、身を粉にして動く背番号15のスタイルが、チーム全体に浸透している。

「8回に気持ちを切らすことがなかったのも、3年生の声かけです。3年生のおかげだと思います」(小牧監督)。主将・山口へ向けられた言葉であることは、言うまでもない。

 中1日の休養日を挟んで準決勝だ。投打の中心選手である2年生・森下は言う。

「どこが来ても、強い相手。食らいついてやっていきたい。低め低めに集めて、最少失点に抑えていきたいです」

 2013年、2年生エース・高橋光成(現西武)を擁した前橋育英以来となる、夏初出場初優勝まであと2勝に迫った。京都国際は一発勝負のトーナメントにおいて「鉄則」と言われる、勢いに乗る勝ち方が続いている。

文=岡本朋祐
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング