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プロ野球はみだし録

「阪神園芸の顔なじみのおっちゃん」に練習をサボって一喝された川藤幸三【プロ野球はみだし録】

 

仕事はグラウンド整備だけではない?



 プロ野球、高校野球を問わず、甲子園球場に雨が降れば彼らの出番となる。野球ファンにはおなじみ、この夏の高校野球でも大活躍の、阪神園芸の皆さん。グラウンド整備におけるプロ中のプロだ。

 もちろん、プロ野球では、甲子園に本拠地を置く阪神と深くて長い関わりがある。2リーグ制となって日本一から遠ざかっていた阪神が、ひとつの完結をみたのは“猛虎フィーバー”に沸いた1985年だろう。悲願を胸に、試合を前にした阪神ナインを支えていたのも彼らだった。

 長く代打の切り札として活躍して、プロ18年目となった85年はシーズン5安打ながら胴上げまでされた川藤幸三は、試合の前に元チームメートでフロントや用具係を務めた小笠原正一から「生きた球を投げてもらって若手の練習が始まる前に毎日バッティング練習した」(川藤)のだという。それだけではない。

「85年よりも前の話やけど、1日だけ都合で練習を休んだことがある。ちょっとヒットが出だして、ぼちぼち休みたい、楽したいという思いが用事を作らせたわけや。そうしたら阪神園芸の顔なじみのおっちゃんに、なんで休んだんや、と訊かれた。ワシかて用事くらいあるわい、と答えたら、一喝された」

85年のリーグ優勝時に胴上げされた川藤


 2013年の『プロ野球偉人伝』でのインタビューで、川藤は当時のことを語っている。その「阪神園芸の顔なじみのおっちゃん」は、「お前も偉くなったな。正ちゃん(小笠原)はカワ(川藤)がいつ来てもいいように毎日、散水して、打席をならして、300個のボール用意をして、仕事でもないのに、それだけやってくれる正ちゃんの気持ちを考えろ!」と檄を飛ばしたという。川藤の記憶も鮮明だ。

「完全にワシの負け。そんな正ちゃんや(阪神)園芸のおっちゃんに支えられてワシはヒットを打たせてもらっとんたんやな。ワシだけやない。選手はみんな、そういう人たちに支えられとる」

 85年は「完璧な補欠」(川藤)ながらも、ベンチで誰よりも(態度が?)大きく見えた川藤。日本一チームの精神的支柱へと川藤を押し上げたのも、阪神園芸の“プロの仕事”だったのかもしれない。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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