8月の月間成績が悪化
エース・西勇輝は白星から見放されている。8月27日の
広島戦(マツダ広島)も2点のリードを守れず、6回3失点で9敗目。6月18日の
巨人戦(甲子園)以来2カ月以上白星が遠ざかっている。
前半戦終了時点では4勝6敗、防御率3.19。先発回数はチーム最多の15でクオリティスタート(先発投手が6イニング以上を投げ、3自責点以内)が9度とまずまずの成績だ。投球回数もチーム最多の98回2/3。「西の投げる試合は打線の援護が少ない」と同情的な見方もあった。後半戦に入ったら白星を重ねていくと思われたが、8月の月間成績は0勝3敗、防御率5.29と悪化している。
「西の持ち味は大崩れしない安定感ですが、7月以降は集中打を浴びて大量失点するケースが見られる。阪神がリーグ優勝するためにはエースの力が不可欠なので復調してほしいですね」(スポーツ記者)
前出の記者が指摘したように、西の投球スタイルは走者を出しても要所を締める粘り強さだ。驚くほど速い剛速球、絶対的な変化球があるわけではない。両ホームベースのサイドを巧みに使い、スライダー、シュートと横の変化に加えてチェンジアップで奥行きも使う。直球は常時140キロ台前半だがキレがある。制球力が良いから連打を浴びない。
オリックス在籍時に高卒3年目の11年に10勝をマークして以来、先発ローテーションで稼働している。フィールディング、牽制も球界屈指と呼ばれるほどの能力で身を助けてきた。
昨年は新型コロナウイルスの影響で開幕が遅れた。5月に週刊ベースボールのインタビューを受けた西は「ピークを持っていこうとしたのは『心』の部分のみです。体は、夏場にピークを持っていく。そういう投手が、1年間先発を守れるピッチャーだと思うんです。その中で今季、僕が試そうとしていることは、何年も前から考えて準備していたので、あとは試合で披露するだけ。今季やろうとしていることを、今季のキャンプで試しているようでは遅いです」と力説。
さらに「僕の真っすぐは速くないですし、球種もそこまで多くない。そういう投手がどうやったら勝てるのか。これは1年のみだと何も得られない。そこは何年も前から準備しないと勝てる投手にはなれません。試して打たれることもありますが、損はないと思っています。ましてセ・リーグでは打撃、走塁が必要。そこもしっかり準備してやっていかないと勝利には近づけないですよね」と語っている。
「苦しむことでうまくなる」
飽くなき向上心で投球に対する研究熱心な姿勢は若手のお手本だ。昨年は3年連続2ケタの11勝5敗でリーグ3位の防御率2.26をマーク。通算1500投球回もクリアし、先発陣の軸として稼働した。
今季は区切りのプロ通算100勝まであと5勝だったが、6月18日の巨人戦で4勝目を挙げた後に、6度の登板で白星がなく節目の記録になかなか到達できない。
西はインタビューで、「ポジティブに楽しく練習している選手だと思います」と自己分析している。白黒つくスポーツである以上、思うような結果が出せずに苦しむ時期もある。だが、その時の心構えこそ重要だという。
「そこが楽しいんですよ。苦しむことで絶対にうまくなっているから。僕は打たれたときこそ、試すべきだと思っているし、そこで新しい自分を発見できるんです。若手の投手が、同じ打者に、同じようなボールで打たれているとします。僕は違う配球パターンを試したらいいんじゃない? と言うんです。自分のスタンスを変えるのは難しいですが、そこで抑えることができたら、新しい発見じゃないですか?」
西は苦しみを糧に自分自身を信じている。今は苦しみの中にいるが、光が差し込んでくる時期は絶対にやってくる。今日の巨人戦(甲子園)で先発予定だが、本来のピッチングを見せることができるだろうか――。
写真=BBM