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プロ野球はみだし録

「僕らはゲームの中で表現しなければと思った」荒れた試合を一発で黙らせた長嶋茂雄【プロ野球はみだし録】

 

「こんちくしょう、と思っていた」



 古今東西、荒れる試合は少なくない。数えたわけではないが、塁上のクロスプレー、審判の判定、そして死球あるいは危険球が原因であることが多い印象がある。優勝の行方をも左右した感のある乱闘は、死球スレスレの危険な投球が発端だった。この2021年も巨人と阪神が首位を争っているが、53年前の1968年、その両雄の首位攻防戦で事件は勃発する。

 9月18日、甲子園球場でのダブルヘッダー第2試合。4回表二死二塁で、打席には王貞治がいた。マウンドには立ち上がりから乱調だったジーン・バッキー。1回表から味方の失策、死球、四球、死球の押し出しで1点を献上していたバッキーだったが、この4回表は4点を奪われ、王への初球は王の頭部あたり、2球目はヒザ元すれすれへの“危険球”に。死球にこそならなかったが、これに王はバットを持ったままマウンドへ足を向ける。「気をつけてくれ」と言っただけで、バッキーも「OK」と応じて事は穏便に収まるかに見えた。だが、これが巨人ベンチの爆発を呼んでしまう。

 先陣を切って飛び出したのは王の師匠でもある荒川博コーチ。阪神ナインに腕を抑えられながらもバッキーに蹴りを入れると、バッキーは荒川コーチに右ストレートを見舞い、両チームは乱闘に突入していった。結局、バッキーと荒川コーチが退場となり、試合が再開されたが、急遽マウンドに立った権藤正利が王の側頭部へ死球を与えたことで、ふたたび球場は騒然となる。ただ、このときは権藤の人柄から故意ではないと判断した巨人の川上哲治監督がナインを呼び戻している。

 続く打席に入ったのが“ミスター”長嶋茂雄だった。長嶋は続投の権藤から左翼席へ3ラン。殺伐としていた場内の雰囲気は、この一発で急に落ち着いた。試合は巨人の圧勝で終わり、「こんちくしょう、と思っていた。どんなことがあっても打つという気持ちだった」と振り返った長嶋だが、「暴力はいけない。僕らはゲームの中で表現しなければと思った」とも語った。死球で担架で運ばれた王は、すぐに復帰。乱闘で骨折したバッキーはシーズンを棒に振り、阪神もV逸、巨人がV4を決めている。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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