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背番号物語

【背番号物語】阪神「#9」頭蓋骨骨折から復活。佐野仙好が最長ナンバーは初代主将に始まる“猛虎魂”の王道

 

アキレス腱断裂、頭蓋骨骨折……


81年には最多勝利打点のタイトルを獲得した佐野


「9」という背番号には、“苦”と音が通じることもあって、“苦労人のナンバー”という印象がある。実際、故障や不振に苦しみながらも復活を遂げてカムバック賞を贈られた選手が各チームの系譜には散見され、こうした特徴を持つ背番号であることは確かだろう。一方で、同じく音から忌み数とされる「4」はプロ野球が始まった1936年には欠番とするチームも多かったが、「9」を欠番としたチームは皆無だった。野球は9人で攻め、9人で守るスポーツ。チームのことはナインと呼ぶ。「9」は野球とは切っても切れない重要なナンバーなのだ。苦労人の勲章と、野球の象徴。この両面を凝縮して、濃密な物語を紡ぐのが阪神だ。

 最長は阪神ひと筋16年で一貫して背負い続けた佐野仙好。中大からドラフト1位で74年に入団した三塁手だったが、習志野高から同じドラフトの6位で入団した掛布雅之との熾烈なポジション争いに敗れ、77年からは外野手に。その77年、レギュラーに定着しかけた佐野を悲劇が襲う。飛球を追っていた佐野は、コンクリートむきだしの外野フェンスに頭から激突して、昏倒。頭蓋骨骨折の重傷だった。だが、2カ月あまりで戦列に復帰すると、最初の打席で本塁打を放って復活をアピール、その後は不動のレギュラーに。81年にはタイトルとして制定されたばかりの最多勝利打点に輝き、85年には六番打者としてリーグ優勝、2リーグ制となって初の日本一に貢献している。

12年間、阪神の「9」を背負った安藤


 佐野に次ぐ2位の12年間で「9」を背負ったのが安藤統夫(統男)。「9」を佐野に託した前任者で、コーチとして佐野と掛布を徹底的に鍛え、「2人ともレギュラーで生かしたかった」と佐野を外野に導いた“恩師”でもある。安藤も阪神ひと筋、一貫して「9」だった内野手で、外野にも回った4年目の65年には代打サヨナラ打3本と勝負強さが持ち味。68年に左アキレス腱を断裂しながら、その左足をかばって一本足打法にしたことでブレークを呼んだ不屈の男だった。70年には二塁でベストナイン。73年オフに引退してからはコーチ、二軍監督を経て82年から84年は監督も務めている。入団のときから将来の幹部候補として期待されていた安藤だが、その「9」は阪神の歴史が始まったときからチームの中心で“猛虎魂”を炸裂させたナンバーだった。

21世紀に完全復活も?


 最初は名前のイロハ順で背番号を割り振っていった阪神。「4」は欠番としてスキップされたが、初代の「9」となったのは、“猛虎魂の権化”といわれ、初代の主将でもある松木謙治郎だった。2シーズン制だった37年の春季は一番打者として打率.338、4本塁打で首位打者、本塁打王の打撃2冠に。40年には兼任監督となって「30」となり、翌41年いっぱいで退団、その後はプロ野球から離れていたが、2リーグ分立で主力が大量に離脱した50年に兼任監督として復帰して、1年だけ「9」を背負った。このとき球団が強化資金を出し渋り、私財を投じて戦力を整えたという。チームの礎を築いた功労者だ。

 戦前、松木から「9」を継承したのは“ミスター・タイガース”藤村富美男の弟で右腕の藤村隆男だが、兄が兵役にいた期間であり、弟と兄で「9」「10」に並んだことはない。戦後の1リーグ時代は内野手の長谷川善三のみ。松木の復帰から系譜は安定感を欠くようになる。初めて10年を超えたのが安藤だった。

現在、阪神で「9」を着けている高山は今季、一軍出場がない


 佐野の引退で90年に後継者となったのは新人で二塁手の岡本圭治だったが、故障に勝てず5年で引退。95年には同じく新人で捕手の北川博敏が継承も、ブレークは近鉄へ移籍した2001年だった。翌02年に内野手で2年目の藤本敦士が背負ったことで存在感が復活。09年オフに藤本がFAでヤクルトへ移籍すると、翌10年に来日1年目のマートンが背負って214安打で最多安打、14年には打率.338で首位打者に。

 マートンの退団で16年に継承、新人王に輝いたのはドラフト1位で入団した高山俊だ。その後はルーキーイヤーを超えられずにいる高山だが、“猛虎魂”の王道ともいえる背番号の後継者。さまざまな逆境は「9」の傾向でもある。“猛虎魂”が覚醒する日は、必ず来るはずだ。

【阪神】主な背番号9の選手
松木謙治郎(1936〜39、50)
安藤統夫(1962〜73)
佐野仙好(1974〜89)
藤本敦士(2002〜09)
高山俊(2016〜)

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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