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法大が新型コロナ禍の東京六大学は1週遅れの開幕。なぜ「出場辞退」「不戦勝・不戦敗」の事態を回避できたのか

 

「六大学でやり遂げる」が関係者の意志


東京六大学秋季リーグ戦は法大の活動状況を受け、開幕を1週遅らせ、9月18日とした


 何度も言葉を詰まらせた。法大・加藤重雄監督の涙がすべてだった。何度も頭を下げた。

「リーグ戦に参加させていただける。連盟、五大学の監督、連盟関係者の皆さまにはご迷惑とご心配をお掛けし、寛容なご配慮に、厚く御礼申し上げます。神宮で試合をさせていただけるので、ありがたく思います。勝敗云々よりも、ご迷惑をおかけしない、しっかりとしたゲームができればと思います」

 東京六大学野球連盟は9月9日、東京都内で理事会を開き、11日に開幕する秋季リーグ戦について協議した。新型コロナウイルスの集団感染が出た法大が、8月20日から活動停止。大学側はリーグ戦出場について「未定」としていたが、この日の13時までに大学の対応が決定した。活動再開は9月25日、対外試合の解禁は10月9日以降となった。

 法大の活動状況を受けて、同連盟の理事会で話し合い、日程変更が承認された。開幕は1週遅れの9月18日。法大の出場は第4週の10月9日以降。当初の9月に行われる予定だった法大の3カードは10月の予備日(火、水曜日)に組み込まれることとなった(東京六大学の予備日は月〜水曜日)。

 出場辞退、不戦勝・不戦敗という2つの事態を回避し、6校によるリーグ戦が実現する。

 なぜ、合意に達することができたのか。

 9月上旬に開催された同連盟の常務理事会の段階で「六大学でリーグ戦を実施するために最善策を模索する」ことが基本方針にあった。

 9日の理事会後のオンライン会見で慶大・堀井哲也監督が「六大学でやり遂げようというのが、関係者の意志」と言えば、早大・小宮山悟監督も「何とか力を合わせて」と共存共栄のスタンスを強調した。開幕から4週連続で試合が組まれることになった東大・井手峻監督は「空き週が大事だとは感じていなくて、ウチとしては土、日で連続してできるのは良い。それでいきましょう! と。協力態勢? それは、そうです」と話した。

対戦5大学をリスペクトする精神


 常日ごろから万全の感染予防対策を実践していても、防げないのが新型コロナウイルスの怖さだ。法大以外の加盟校の一部でも感染者が出ており、いつどうなるか、誰にも分からない。東京六大学は昨春も2度の開幕延期を経て、8月に開催へこぎ着けた経緯がある(各校5試合)。優勝校には天皇杯が授与される歴史的背景からも、6校が手を取り合い、運営していこうという考えが一貫としている。

 それが「対抗戦意識」である。東京六大学はリーグ戦開催の大前提として、対戦する5大学をリスペクトする精神がある。1校でも欠けてしまえば「六大学」として、リーグ戦は成立しない。これが、全加盟校の共通認識だ。

 コロナ禍において、当たり前のことが、当たり前ではなくなった。法大・加藤監督は言う。

「今はユニフォームを着て、グラウンドに立たせていただけるだけで感謝です。練習もできない中で、どんな試合ができる、とは言えません。スポーツマンシップに則り、正々堂々と戦う、というのが私の根底にあります。アマチュアイズム、学生らしい野球を見せていきたい。調整不足を言い訳にせず、失礼のない試合をやっていきたいです」

 1925年秋に創設された東京六大学リーグ。翌26年には同連盟の協力の下で、明治神宮野球場が完成した。26年秋には東宮杯(摂政杯、46年秋からは天皇杯)が下賜され、歴史をつないできた。今秋の開幕を前にして、法大以外の5校とも活動に制約があり、オープン戦も満足に組めず、調整が大きく遅れているという。しかし、神宮の大舞台が待っている。各校の選手はこの秋、改めて、伝統の重みを感じて、プレーすることになる。

文=岡本朋祐 写真=長尾亜紀
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