抜群の成績を残した4人の新人
阪神・
佐藤輝明、
中野拓夢、
伊藤将司、
広島・
栗林良吏、
DeNA・
牧秀悟――。今季のセ・リーグは5人のルーキーがハイレベルな新人王争いを繰り広げている。そこで思い出されるのは横浜が38年ぶりに優勝した1998年のセ・リーグだ。この年も4人のルーキーが高い次元で躍動した。
まずは中日・川上憲伸。明大の先輩でもある
星野仙一監督が率いる中日を逆指名した東京六大学のエースは、プロ初登板となった4月9日の阪神戦(ナゴヤドーム)で初勝利を飾ると、以後は先発ローテーションを守って14勝を挙げた。7月4日の
巨人戦(ナゴヤドーム)では初完封。真っ向勝負が身上の本格派右腕はリーグ2位の防御率2.57をマークし、チームを前年の最下位から2位に押し上げる原動力となった。
その川上とは東京六大学時代からライバルだったのが、慶大から巨人に入団した高橋由伸。「七番・右翼」で開幕スタメンを勝ち取り、レギュラーの座を獲得。その打撃力を買われ、6月下旬からは重量感あふれる巨人打線の五番を任された。打率はジャスト3割。140安打は新人の安打数としては歴代6位、75打点は歴代8位の記録だった。高橋は守備での貢献度も高く、補殺はリーグ最多タイの12を数え、セ・リーグの新人外野手としては初の補殺王にもなった。
阪神の坪井智哉は打率.327で2リーグ誕生以後の新人最高打率をマーク。開幕からしばらくは代打での出場だったが、シュアな打撃ですぐにレギュラーに定着し、主に一番打者として活躍した。
オリックスの
イチローのような“振り子打法”で左右に打ち分け、特に巨人戦では打率.409のハイアベレージ。阪神ファンの喝采を浴びた。
小林幹英は広島のセットアッパー、クローザーとして54試合に登板し、9勝18セーブを記録した。投球時にグラブを突き出す独特のフォームで投げまくり、81回2/3の投球回を大きく上回る105三振を奪った。
4人とも前年秋のドラフトで入団したばかりのプロ1年生。「レベルが高すぎますよ」とうなったのは巨人・
長嶋茂雄監督だった。果たして、このなかから誰が新人王に選ばれるのか。誰が選ばれるにしろ、この成績ならば僅差が予想されたが、結果は意外にも川上の圧勝に終わった。
直接対決で明暗が分かれた!?
記者投票の結果は以下だ。
川上憲伸 111票
高橋由伸 65票
坪井智哉 12票
小林幹英 5票
無 効 3票
「本当にうれしい。誰が取ってもおかしくないと思っていました。打者に向かっていく姿がアピールできたのでは」
受賞の報を聞いた川上は興奮気味に口を開いた。予想外でもあった2位・高橋との46票差は、22打数1安打に終わった直接対決の結果が大きかったのだろう。「学生時代は打ち込まれていましたから」と川上は語ったが、ライバルを抑えての新人王に笑顔がはじけた。星野監督も「憲伸はよう投げてくれた。巨人の高橋を抑えて取ったのは大きいな」と喜んだ。
高橋はもちろん坪井、小林も新人王を取るに値する成績だったが、彼らの不運はこの年にプロに入団したことだったかもしれない。惜しくも新人王を逃した3人は、その成績を称えられ、セ・リーグ会長特別表彰を受けた。
写真=BBM