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プロ野球はみだし録

長嶋監督の“解任”で……カミソリの刃を送りつけられた新監督の藤田元司【プロ野球はみだし録】

 

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 前回、ヤクルト荒木大輔のプロ初勝利をリリーフした尾花高夫を紹介した際に「実際にカミソリを送りつけられるようなことも少なくなかった時代」と述べた。21世紀に生まれた若い人には信じてもらえないかもしれないので、実例を紹介してみたい。荒木のプロ初勝利は1983年だが、その3年前、80年のことだ。

 その80年10月21日、巨人の長嶋茂雄監督が辞任。選手としては巨人だけでなくプロ野球を国民的スポーツにまで昇華させた功労者で、監督としても人気は絶大だった。そこで新たに就任したのが藤田元司監督だ。ただ、長嶋は事実上の解任であり、これには親会社の読売新聞に対して不買運動が起きるなどファンが猛反発。その矛先は藤田にも向かった。それこそが、カミソリの刃が同封された手紙だったのだ。もちろん藤田が長嶋を解任させたわけではないから、こうした蛮行は八つ当たりや嫌がらせの域を出ない。

 プロ野球選手(あるいは監督、コーチなど)のTwitterアカウントは分かっても住所は調べようがない、という若いファンも多いだろう。だが、現在の感覚では信じられないが、当時は各社の選手名鑑に、出身地や出身校、ポジションに投打の左右などと一緒に、彼らの住所が載せられていたのだ。以前、通算本塁打で世界の頂点に近づいた王貞治の自宅にファンが詰めかけたことも紹介したが、彼らも名鑑の住所を頼りに行動にしたと考えられる。藤田にカミソリの刃を送りつけるのは、SNSに悪口を書き込むよりは手間がかかるが、それほど面倒なことでもなかったのだ。だが、心臓に持病を抱えていた藤田はノイローゼ気味になるほど精神的に追い詰められたという。

 それでも藤田は、現役を引退して助監督に就任した王、牧野茂ヘッドコーチとの“トロイカ体制”を構築、就任1年目から巨人をリーグ優勝、日本一へと導く。そして3年で王に監督の座を禅譲した。88年オフには王監督も事実上の解任となったが、このときも後任を引き受けて、やはり1年目から日本一に。そして92年オフには長嶋にバトンを託している。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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