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[MLB]14度目の労使協定はすんなりと合意できるのか

 

1994年8月から翌4月までストライキを行うなど、労使交渉でさまざまな話し合いが行われ、こじれながら、現在のMLBが生き続けている。次の労使交渉はうまく折り合いがつくだろうか[写真は94年のストライキ直前]


 現行の労使協定は今年12月1日に失効するが、それに向けての話し合いがこれから本格化する。ネットメディア「ジ・アスレチック」によると、8月16日、双方が初めて対面で話し、オーナー側はサラリー総額1億8000万ドルからチームにぜい沢税を科す代わりに、どのチームも最低でも1億ドルを選手の給料に使わねばならないことにすると、新提案を出したそうだ。

 近年、再建の名のもとにベテラン選手にお金を使わないチームがあり、今季は7チームが1億ドル以下だった。一方選手会側は、21年は2億1000万ドルを超せばぜい沢税を払わねばならなかったのだが、これをほとんどのチームがサラリーキャップのように扱い、財布の紐を固くしめたことに不満を募らせていた。

 ゆえに1億8000万ドルからのせい沢税は大反対だろうし、FA権を得るのに時間がかかり過ぎるとルール改正を要求するだろう。ちなみに協定失効までに合意できなければロックアウトとなり、オフの動き(FA移籍、ポスティングなど)が止まる怖れがある。2020年シーズンがきちんと始まるかどうかも心配だ。とはいえ選手に、欲を張るなと安易に言うことはできない。

 1968年2月以降、締結されてきた過去13度の労使協定を読むと、選手たちの戦いなしには、何も得られなかったことが分かるからだ。自動車や鉄鋼関連の労働組合のエコノミストだったマービン・ミラーが66年に選手会代表に就任。選手の権利を主張したが、初めて獲得したのはささやかなものだった。まず最低年俸を保証してもらい、その金額は68年は6000ドル(216万円、1ドル=360円の固定相場時代)、69年は1万ドル(360万円)だった。前年からのサラリーカットは最大20パーセントまでに制限。ルールを変えるときはオーナーが一方的にではなく労使の合意が必要。選手を一つの球団に縛り付ける保留条項ついては研究会を立ち上げるなどである。

 この初代協定は70年4月5日まで2年間有効。2代目協定は年金問題で対立、選手会は70年4月1日から13日間のストライキを決行し86試合がキャンセルされた。最初の8度の労使協定は、調停権、FA権などで毎回もめ、ロックアウト、法廷闘争、ストに発展した。

 そして94年夏はサラリーキャップに断固反対し95年春までの長期ストに。現在の選手は昔の選手が自らを犠牲にして戦ったからこそ今の好待遇があると知っているし、戦わないと未来の選手が困ると責任を感じている。筒香嘉智(パイレーツ)のジョエル・ウルフ代理人は、現役時代はマイナー・リーガーで、95年の春、球団首脳に呼ばれ、「ピケットラインを破り、上でプレーしないか」と誘われたという。当然給料は良くなるし、夢も叶う。だが彼は断り、仲間と戦った。

 その結果、現役時代に一度もメジャーに上がれなかったが、そのことを後悔してはいないと言う。応援してくれるファンのために、ロックアウトやストはない方が良い。しかしプロ野球があこがれの職業であり続けるには、簡単に妥協してはならないのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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