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投球で上体を地面に水平になるくらいまで倒す意味とは?「理由は大きく2つある」/元阪神・藪恵壹に聞く

 

読者からの質問にプロフェッショナルが答える「ベースボールゼミナール」。今回は投手編。回答者はメジャー・リーグも経験した、元阪神ほかの藪恵壹氏だ。

Q.連続写真解説のページを見ていると、「リリースからフィニッシュにかけて、上体を地面に水平になるくらいまで倒せればなおいい」と藪恵壹さんが誌面でアドバイスをしていました。その理由を教えてください。実際に試してみましたが、かなり難しく、意識をしてしまうとそれに気を取られて腕の振り疎かになってしまいました。コツ、方法を教えてください。(東京都・18歳)


ドジャースのシャーザー


A.理由は2つ。(1)「ボールに体重を乗せる」(2)「バッターとの距離を詰める」です

 まず、上体を地面に水平になるくらいまで倒す理由ですが、2つあって、端的に言うと、(1)「ボールに体重を乗せる」、(2)「バッターとの距離を詰める」です。

 まず、ピッチングをする上で、人体の構造(自分の体のことです)などにも興味を持つことはすごく大切なことです。例えば、成人男性の頭の重さは、体重の約10パーセントと言われています。60キロの人ならば約6キロで、プロの体の出来上がっているピッチャーで、身長が180センチ以上あれば、体重は大体85キロくらいから、重くて100キロ程度なので、頭の重さは約8キロ〜10キロくらいとなります。これが上半身(両腕と頭を含む)となると、体重の約60〜70パーセント程度とも言われていますから、今例に挙げたプロ野球選手ならば50キロを超えてきます。もちろん、個人差はあるのですが、上体を倒すことで、これだけの体重をボールに乗せることができるわけです。

 質問の方は上体を倒そうと意識すると、腕の振りが疎かになるとのこと。1つのことにとらわれるとそうなってしまうのは当然でしょう。まず大事なのは下半身からの連動で、軸足股関節からステップする側の股関節へとシフトチェンジをしっかりと行うことです。このときに大切なのが、軸足側のヒザを折らないこと。ヒザを折ってしまうと軸足側に体重が残り、十分なシフトチェンジを行えず、リリースポイントも後ろに。上体を倒すどころではなくなります。

 しっかりとヒザを伸ばすことでシフトチェンジがスムーズにいき、上半身も前へ。そうすることで左の腹部(右投手の場合)が、ステップした側の四頭筋(太ももの前側の筋肉)の上につくくらいに上半身を倒すことができます。ここまでくれば、上体は地面に水平でしょう。腕はこの動きについてくる感覚。MLBドジャースのマックス・シャーザーのフォームを見てみてください。彼の上半身の倒しはすごいですよ。

 このときに、頭が突っ込むことを指摘される場合もありますが、下半身、上体、腕の連動があるのならば、頭が前に行くほど手が前に出て、リリースポイントが前に出るので、悪いとは考えていません。リリースポイントが前に出れば、バッターとの距離が短くなります。同じ140キロでも、20センチでもリリースが近くなれば、バッターを差すことができます。キャッチボールから上体を倒すことを意識するといいと思います。

●藪恵壹(やぶ・けいいち)
1968年9月28日生まれ。三重県出身。和歌山・新宮高から東京経済大、朝日生命を経て94年ドラフト1位で阪神入団。05年にアスレチックス、08年にジャイアンツでプレー。10年途中に楽天に入団し、同年限りで現役引退。NPB通算成績は279試合、84勝、106敗、0S、2H、1035奪三振、防御率3.58。

『週刊ベースボール』2021年9月6日号(8月25日発売)より

写真=Getty Images
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