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背番号物語

【背番号物語】田淵幸一「#22」虎のプリンス、獅子のキングが一貫して背負ったトレードマーク

 

法大の通算、プロ1年目と22本塁打


阪神時代の田淵


 この2021年も5チームで捕手が着けている「22」。古くから捕手のイメージが強いナンバーではあるが、この背番号で打線の主軸を張った捕手となると、グッと人数が少なくなってくる。捕手で強打者、そんな「22」の筆頭に挙がってくるのは、阪神と西武で通算474本塁打を残した田淵幸一だろう。背番号は、プロ入りから引退まで一貫して「22」だった。

【田淵幸一】背番号の変遷
#22(阪神1969〜78)
#22(西武1979〜84)

 法大でプロの背番号と同じ通算22本塁打を放った田淵は、ドラフト1位で1969年に阪神へ入団すると、いきなりレギュラーに定着、やはり背番号と同じ22本塁打を放って新人王に輝く。まさに“虎のプリンス”。ゆったりとした構えからの豪快なスイングで量産される本塁打は美しい弧を描き、“ホームラン・アーチスト”と呼ばれた。ただ、その後は何度も強い逆風に見舞われる。漫然と吹き続けるものではなかったものの、一発の勢いが強い逆風だった。

 2年目の70年は巨人で長く本塁打王を独占していた王貞治に大きく離されながらもリーグ2位の21本塁打としていたが、8月26日に頭部へ死球を受けて昏倒。田淵とのバッテリーが“黄金バッテリー”と評された左腕の江夏豊は、倒れた田淵を見て「ああ、死んだ」と思ったというが、実際、生死の境をさまよう重傷だった。現在は耳の部分もカバーしたヘルメットが一般的だが、その必要性が強く叫ばれるようになったのは、この死球が契機だ。もちろん残りのシーズンを棒に振った田淵が退院したのは10月14日で、まだ阪神と巨人は激しく優勝を争っていた時期。巨人がV6を決めたのは22日の最終戦で、阪神とは2ゲーム差だったから、この死球による田淵の離脱がなければ、優勝の行方が違ったものになっていた可能性は高いだろう。

 田淵は翌71年には腎盂炎に苦しめられ、18本塁打に終わっている。それでも、続く72年には34本塁打と完全復活。74年に自己最多の45本塁打を放つと、翌75年には43本塁打で初の本塁打王に。これは王の連続本塁打王をストップさせる快挙だったが、同時に田淵にとっては最後の打撃タイトルだった。その後は故障も続き、本塁打の数も減少。阪神の四番打者が背負う宿命なのか、容赦ない批判の矢面に立たされることも増えるようになる。苦しむ田淵に、ふたたび大きな逆風が吹きつけた。78年オフ、西武へのトレードだ。

阪神では木戸、西武では和田が後継者に


西武時代の田淵


 非情のトレード通告は11月16日の深夜だった。すぐに会見を開いて「犠牲になるのは俺で最後にしてほしい」と涙を流した田淵だったが、このトレードは西武の堤義明オーナーが「全国区の人気選手を獲れ」という厳命によって実現したもの。阪神にすれば放出に近いものだったかもしれないが、本拠地を九州は福岡から埼玉は所沢へ移し、生まれ変わったばかりの西武にとっては、田淵の獲得は熱望したものだったのだ。

 新天地でも同じく「22」を背負った田淵は、移籍2年目の80年に43本塁打と復活。後期は一時だが首位に立つなど、長く低迷を続けていたチームの躍進に貢献する。自身をモデルにしたギャグ漫画『がんばれ!! タブチくん!!』も大ヒットしたころだ。だが、翌81年は故障に苦しみ86試合で15本塁打。その翌82年には、就任した広岡達朗監督に「一番の高給取りが守れない走れない、これではダメだ」と批判され、キャンプでは一塁の守備を練習させられたが、開幕から8試合目にして失格の烙印を押されて指名打者に。それでも最終的には25本塁打を放って、西武の初優勝、日本一に貢献した。

 西武がリーグ連覇、2年連続で日本一となった翌83年には82試合の出場ながら30本塁打を放ち、「田淵がホームランを打てば負けない」という“不敗神話”も生まれている。王のプロ野球記録を更新しそうな本塁打の量産ペースだった田淵だが、これをストップさせたのも、やはり死球だった。このときの骨折は尾を引き、その翌84年オフに引退している。

 阪神では田淵の前に主軸の田宮謙次郎が印象を残していた「22」だが、田淵の移籍で4年の欠番を挟んで捕手の木戸克彦が継承。西武では97年に捕手の和田一浩が後継者となって打力で台頭、2000年に捕手の中嶋聡が“捕手らしい背番号”を希望して「22」となり、和田は「5」として打線の主軸に成長していった。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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