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【MLB】「ツ、ツ、ツーギオ」筒香嘉智をもり立てるピッツバーグベテランアナの名調子

 

パイレーツで認められ始めた筒香。名物ラジオ実況アナ、ブラウン氏の名調子で、ピッツバーグファンにも「ツツゴウ」はすっかり定着した


 メジャー・リーグの試合が初めてラジオ中継されたのは1921年8月5日。場所はピッツバーグ。マイクを前に喋(しゃべ)ったのは25歳の電気技師で、当初は1回限りの実験だったが、同年10月大学フットボールの中継も成功。これは良いということで、その年MLBはワールド・シリーズで初めてラジオ中継を実施した。

「歴史ある街でパイレーツの実況アナを2番目に長くやらせてもらっている。伝統を継承できてうれしい」とは1994年から現職で今年60歳のグレッグ・ブラウンさんだ。

 彼の名調子は日本の筒香嘉智ファンの間でも話題になっている。9月5日シカゴ、リグレー・フィールドでの一撃はこうだった。「ヨシが左中間にフライを打ちあげました、大きい。センターが追うが、諦めた」、「ジャケットはいりません。ツ、ツ、ツーギオ、反対方向への本塁打は第7号です」。「ツ、ツ、ツーギオ」というのは、英国のミュージシャン、フィル・コリンズが1985年に発表、大ヒットした「ススーディオ」から来ている。実際歌の中では「ス、ス、スーディオ」とリズミカルに繰り返す。同じ音程とリズムだ。

「パイレーツが筒香と契約して名前を聞いたときに、すぐこの曲が思い浮かんだ」。当初、SNSなどで「ブラウンアナは筒香の名前を正しく発音できていない」と叱られたそうだ。だが中にはフィル・コリンズだと察知してくれる人もいて、その書き込みを自身のツィッターアカウントでリツイートした。

 5日はその前に「ジャケットは要りません(NO JACKET REQUIRED)」を添えた。これは「ススーディオ」が入っていたアルバムの名前で、コリンズがシカゴの高級レストランで食事をしようとしたとき、「JACKET REQUIRED(スーツ着用必須)」と入店を断られ、怒って、製作途中のアルバムの名前にしたという逸話がある。

 奇しくもシカゴで筒香がコリンズの積年の恨みを晴らしたわけだ。ブラウンアナはこんな風に遊び心を挟みつつ、実況を届ける。アメリカには各街にこんな名物アナがいて、独特の名調子とサービス精神で、聞き手にその場にいるかのような臨場感を与える。言うまでもなく、この100年間、国民的娯楽としての野球の人気拡大に果たした役割は大きい。

 ところでブラウンアナが初めて同球団で働いたのは1979年、18歳のインターンだった。最後にワールド・シリーズで勝った年だ。「看板選手のウィリー・スタージェルがクラブハウスでいつもシスタースレッジの『ウィアーファミリー』を聴いていたから、レコードを買って、球場でも勝利の後に流すようにしたら、ファンにも大好評で快進撃のシンボルになった。ナ・リーグ優勝決定シリーズのレッズとの第3戦、大量リードで7回に『私を野球に連れてって』の代わりに『ウィアーファミリー』を流したら、選手の奥さんたちがダグアウトの上で踊りだすほど盛り上がった。最高の瞬間だったけど、今でもすごく反省している。相手チームに敬意を払うべきだったとね」。

 現在パイレーツは再建中で借金は40近い。それでも地元ファンが関心を持ち続けてくれるよう、エネルギッシュにユーモラスに喋り続ける。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
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