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サヨナラ3ランで都市対抗出場を決めたENEOS・山崎錬「皆を笑顔にするプレーがしたかった」

 

社会人で味わった「光」と「影」


東芝との第2代表決定戦(9月29日)。ENEOSの四番・山崎錬は2対2の9回裏二死一、二塁から、右越えへサヨナラ3ランを放ち、本戦出場を決めた


 大卒入社9年目。ENEOSの30歳・山崎錬は社会人で「光」と「影」を味わってきた。

 慶大で主将を務め、大学の先輩である大久保秀昭監督に誘われ2013年、同社の野球部に加入。ルーキーイヤーに「七番・二塁」として、同社51年ぶりの都市対抗連覇を経験した。

「こんなに簡単に勝てるのか、と。オープン戦でも、負けることはなかった。これが、エネオスなんだ、と」

 しかし、勝負の世界は甘くなかった。14年シーズン限りで大久保監督が退任し、母校・慶大の監督に就任。ENEOSは翌15年こそ東京ドームに立つも、16年から4年連続で都市対抗を逃した。この間、西関東二次予選は悪夢の8連敗。同地区のライバルである東芝、三菱日立パワーシステムズ横浜(のち三菱日立パワーシステムズ、三菱パワー、現・三菱重工East)に歯が立たなかった。山崎は回顧する。

「つらかった。もどかしさがありました」

 2019年12月、大久保監督が復帰した。慶大での任期を残していたが、古巣からのオファーを受け、覚悟を持ってユニフォームを着た。

 意識改革に着手し、名門再建へ情熱を傾けた。明らかに空気が変わった。昨年の西関東予選では連敗をストップさせ、2連勝。第1代表で5年ぶりの出場をつかむと、都市対抗本戦では初戦突破を遂げ、史上初の大会100勝を達成。「強豪復活」へ確かな存在感を示した。

 今年の西関東予選は、3チーム(三菱重工East、ENEOS、東芝)による代表決定リーグ戦では決着がつかず(全チームが1勝1敗)、6年ぶりに代表決定トーナメントへもつれ込んだ。ENEOSは東芝との第1戦で敗退(0対1)した。中1日。後がなくなった第2代表決定戦(9月29日)で再び東芝と対戦し、2対2の9回裏二死一、二塁から山崎がサヨナラ3ランを右翼スタンドへたたき込んだ(5対2)。

「錬が打てば勝つ。MVP級の活躍をしてほしい、と言われ、監督の気持ちに応えたかった。予選で勝てない4年間があり、経験した者としては、若い選手にはそんな思いをさせたくなかった。皆を笑顔にするプレーをしたかったので、結果を残せて良かったです」

「東京ドームで胴上げします!」


 昨シーズン限りで6選手がチームを離れた一方、9人の新人(大卒7人、高卒2人)が加わった。チーム最年長は正捕手の10年目・柏木秀文(32歳、城西国際大)で、山崎はチーム2番目の年長者だ。昨年まで10年間、チームを支えた渡邉貴美男(国学院大、昨年は兼任コーチ)が引退した。「唯一無二。チーム一の元気者がいなくなりましたが、貴美男さんが残してくれた『戦う姿勢』が根付いている」。

 その象徴が昨年、入社2年目ながら主将に立候補した川口凌(法大)である。就任2年目、リーダーシップにはさらに磨きがかかり「川口は一番、練習する。中心選手としてふさわしい」と、山崎は後輩たちが動きやすいようにサポートしてきた。投手陣は左腕・加藤三範(筑波大)、右腕・関根智輝(慶大)が好投し、野手も度会隆輝(横浜高)、瀧澤虎太朗(早大)、瀬戸西純(慶大)と新人が戦力として躍動。右腕・柏原史陽(同大)に柏木、山崎、岡部通織(立大)の経験豊富な選手との融合により、ENEOSはチーム全体が活気づいた。

 大久保監督は試合後、目を潤ませていた。

「しびれました……。どちらに転んでも分からなかった。死力を尽くしてくれた。いや〜しんどかった……。これを勝ったら、強くなるきっかけになる」

 2年連続51回目の都市対抗。歴史をつないだのには、大きな意味がある。山崎は言う。

「我慢の展開。際の戦い。ベンチもひるむことなく、ファイティングポーズを取り続けてくれた。こういう野球をしたかったんです」

 ENEOSは勝利を宿命とされている。8年ぶりの都市対抗制覇を遂げるまで「強豪完全復活」とは言えない。大久保監督は「(優勝に)到達できるきっかけ、足がかりになる予選だった」と手応えを口に。山崎は今年1月、大久保監督宛の年賀状に「東京ドームで胴上げします!」と力強く書いたという。ENEOSの四番は会社のため、チームのため、そして家族のためにバットを振り続ける。

文=岡本朋祐 写真=矢野寿明
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