週刊ベースボールONLINE

大学野球リポート

新型コロナ禍から“リーグ戦開幕”。法大として求められるものは何か?

 

加藤監督の涙の理由は


法大・加藤重雄監督(右)は約1カ月遅れとなった開幕カードの立大1回戦(10月9日)での敗退(3対8)後、感謝の言葉を繰り返し、涙を流した。左は三浦銀二主将


 法大は約1カ月遅れで、秋のリーグ戦開幕を迎えた。新型コロナウイルスの集団感染により8月20日からの活動休止期間を経て、9月25日に活動再開。秋開幕の立大1回戦(10月9日)は3対8と、黒星スタートとなった。

 対外試合は8月17日のオープン戦以来(対ENEOS)と、50日以上のブランクである。体力的な衰えはもちろんのこと、外出ができない精神的ストレスも積み重なったという。リーグ開幕までの実戦機会は紅白戦1試合(10月3日)のみ。体調を戻すのは難しかった。1対8の9回表に2点を返す、せめてもの意地を見せたが、投打とも精彩を欠いていた。

 4回5失点で降板した先発の主将・三浦銀二(4年・福岡大大濠高)は「コンディションは良くなかったが、言い訳をするつもりはない。実力不足。明日以降、しっかり調整していきたい」と話した。もちろん、勝利を目指して戦っていたが、三浦は「東京六大学の連盟関係者、他の五大学のご理解により神宮に立てたことは、感謝しかないです」と語った。

 今春から母校を指揮する加藤重雄監督も「格別なご配慮をいただき、感謝の気持ちでいっぱいです。感謝に報いるためにも、勝敗にこだわってきましたが、学生たちは全力でできることを一生懸命やってくれた」と話した。活動休止期間中の合宿所における指導体制について振り返ると、感情を抑え切れなかった。

 涙の理由は何か。9月9日の同連盟理事会。法大の感染状況の報告を受けた議論の場で、開幕の延期と日程変更が承認された。「不戦勝・不戦敗」は回避し、あくまでも6校でリーグ戦を開催しようと模索したのである。

 理事会を前にして加藤監督は「半分以上、あきらめていました」と、出場辞退を覚悟していた。しかし、同連盟内では、かねてから「6校が一つになってのリーグ戦運営」の考えで一致。理事会後のオンライン会見で加藤監督は「六大学連盟の内藤(雅之)事務局長、五大学の部長、監督、先輩理事ほか役員の方々の熱いご厚意によって(歴史が)つながりました」と何度も頭を下げ、感謝の涙を流した。

 活動再開から約2週間。「ご迷惑をおかけしない、しっかりした試合をしたい」(加藤監督)。可能な範囲で、最善の準備を進めてきたが、現実は厳しかった。勝負事であるから、勝者と敗者に分かれるのが常。しかし、今回ばかりは結果以上に、六大学として、この秋の開幕を迎えられたことに意味がある。

関係者、ファンへ恩返し


 ネット裏で観戦した法友野球倶楽部(法大野球部OB会)の山中正竹会長(全日本野球協会会長)は感慨深そうに、こう言及した。

「東京六大学の歴史と意義を、深く理解されている連盟理事の方々が『六大学を大事にしていく。6校が1つになって運営する』ことを最優先として日程変更、スタート(開幕)を1週遅らせるという形にしていただいた。本当に、ありがたいことでした」

 法大として、何が求められるのか。

「最大限の力を発揮し、良い学生野球、良い六大学野球を神宮で具現化する。他の五大学、応援してくれる関係者、ファンへ恩返しすることが、責務であると思います。歴史、伝統を築き、さらに発展させていく努力をしていかなければならない」

「良い学生野球」「良い六大学野球」とは、何なのか。これは、野球だけではなく、勝敗を超越した、全競技に共通する基本姿勢である。

「スポーツマンの大前提は、スポーツマンシップです。スポーツの根底には、対等な立場で他を認め合うリスペクトなくして、試合は成立しません。チームメート、対戦相手、審判員を敬い、スポーツへの尊敬を忘れない。決められたルールの中で正々堂々と競い合うからこそ、スポーツマンは紳士で、信頼できる人間として社会的な地位を築き、見ている人に感動を与えます。つまり、求められるのは、スポーツマンとしてのインテグリティ(誠実、高潔、品性)。品性の劣化は、知性の劣化を招き、技術の劣化を招く。技術の劣化は最終的に、組織の崩壊へとたどり着く。つまり、スポーツから品性を忘れてはならないのです」

 学生たちは、先人が積み上げた歴史を熟知した上で、神宮でプレーする。野球に学び、野球から学ぶ。1球、1球に思いを込めた法大の「特別な秋」から目が離せない。

文=岡本朋祐 写真=田中慎一郎
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング