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「自然と涙が出た」不祥事を乗り越えて東海大がリーグ制覇。監督に次ぎ胴上げされた主将・門馬大

 

「ゼロからのスタート」


東海大は首都大学秋季リーグ戦で優勝。主将・門馬大は選手によって、胴上げされた


 込み上げるものを、抑えることができなかった。東海大は10月16日、日体大1回戦を2対0で勝利し、2019年秋以来、74度目のリーグ優勝を決めた。7回の守りから出場した主将・門馬大三塁手(4年・東海大相模高)は、勝利に沸くタテジマの歓喜の輪の中心にいた。

「1年間の苦しい思いが、報われた。自然と涙が出てきました」

 昨年10月、東海大は野球部員による不祥事が発覚し、秋季リーグ戦途中に出場辞退。無期活動停止(昨年12月18日の日本学生野球協会の審査室会議では、10月17日から1月16日まで3カ月の対外試合禁止処分)を経て、今年2月1日に全体練習を再開。新体制として、井尻陽久監督が就任した。門馬主将は「ゼロからのスタート」と、日々の合宿生活から改め、一つひとつを真摯に取り組んできた。

「東海大は『勝利』が使命。勝たないといけないというプレッシャーがありました。勝つことが恩返しになる、と頑張ってきました」

 今春は桜美林大、帝京大、東海大が同率1位で並び、プレーオフへ。東海大は桜美林大とのトーナメント1回戦を落とし、帝京大との優勝決定戦へ進出ができなかった。夏場は「すべてに関して、4年生を中心にやってきました。4年生が良ければ、勝てる。ダメなら負ける」と、最上級生が率先して動き、3年生以下がプレーしやすい環境を整えた。

 勝てば優勝の日体大1回戦では150キロ左腕・矢澤宏太(3年・藤嶺藤沢高)を攻略した。巨人育成3位指名の亀田啓太(4年・東海大甲府高)が先制適時打を放てば、右腕・高杉勝太郎(4年・東海大札幌高)が6安打シャットアウト。やはり、大一番で頼りになるのは4年生である。左腕・安里海(4年・東海大相模高)が3勝を挙げ、打線は高校3年時に侍ジャパンU-18代表の一番打者・鯨井祥敬(4年・東海大市原望洋高)がけん引した。

「ベンチに入れなかった4年生全員が、サポートしてくれました。下級生にも優勝の経験をさせることができて、次につながる」

アクシデントを乗り越えて


 この日は父であり、今夏まで母校・東海大相模高(神奈川)を率いた門馬敬治氏が長男を応援するために、次男・功(東海大相模高3年)ら家族を引き連れて、球場へ応援に駆けつけていた。この秋、3度目の観戦だという。

「私も大学時代に経験していない、主将という大役。苦労もあったかと思いますが、さまざまなことにトライし、やりきったことは誇らしく思います。すべてが財産になる。良い時間を与えてくれた安藤(強)前監督、井尻監督には感謝の言葉しかないです」

 門馬はこれまでも、アクシデントを乗り越えてきた。東林中1年冬、試合で自打球を左目に当てた。手術を受けたものの、低下した視力が元に戻ることはなかった。「野球が好き。それが一番。野球から離れる考えはなかった」。1年のブランクを経て復帰。東海大相模高では父の下で副主将を務めた。右打席でボールが見づらい部分は、オープンスタンスでカバー。三塁守備も打球処理で工夫を重ねた。

 東海大でも右打席で勝負してきたが、2年秋からは左打席の練習を始めた。努力を積み重ね、スイッチヒッターとしてリーグ戦出場を実現した。レギュラーとして常時、グラウンドに立つことはないが、精神的支柱として東海大の象徴である「タテジマのプライド」をチームに浸透させた功績は大きい。

 リーグ優勝後は、井尻監督の次に主将・門馬が胴上げされた。大学卒業後、社会人でも企業チームでプレーする。元監督で父の門馬氏は「一つ上のステージで、また壁にぶつかることがあるかもしれないが、これまでのようにチャレンジしてほしい」とエールを送った。ひたむきに白球を追う、門馬の挑戦は続く。

文=岡本朋祐 写真=川口洋邦
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