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超レア…学生最後4年秋に神宮初登板、白星。慶大150キロ右腕・笠井建吾は「ウチの目標、モデルケース」

 

高校時代野手からトミー・ジョン手術を経た苦労人


慶大の4年生右腕・笠井建吾は法大1回戦(10月19日)で東京六大学リーグ戦初勝利。4年秋にして初めて、あこがれの神宮のマウンド踏み締め、通算3試合目にしての白星だった


 1888年創部の慶應義塾体育会野球部には「スタンドバイ制度」がある。2017年までは、新入生の希望者全員が入部できたが、18年からは「種々の項目(入部動機などを含む)に関する研修・評価を経て野球部長が入部を認めた者」(同野球部ホームページ)と同制度が設定された。つまり、新1年生(選手)は提出書類、新入生練習会で入部選考が行われている(マネジャー、アナリスト等も別途選考)。

 1年間の浪人を経験した右腕・笠井建吾(4年・明和高)は大学入学から約3カ月後、18年6月20日過ぎに部員として認められた。同級生の湯川適マネジャー(4年・慶應湘南藤沢高)は、3年前を回顧する。

「練習は(野球部の活動拠点である)日吉の下田グラウンドではなく、慶應義塾高で行い、故障で投げられない中でも、できることを全力で取り組んでいました。超がつくほど真面目で、地道に向き合う姿を見てきました。あきらめず、よくここまで来たと思います」

 苦労人である。愛知県屈指の県立進学校・明和高では県3回戦で敗退した3年夏は「三番・遊撃」で出場。もともと投手だが、1年時に右ヒジ痛めたため、野手に専念していた。

 同校の先輩がプレーしていたことから影響を受け、慶大を志望。浪人を経て、一般入試で経済学部に合格した。大学では投手に復帰することを目指すため、トミー・ジョン手術を受けている。正式に野球部員となって以降も、気の遠くなるようなリハビリ生活が続いた。

 ようやく投げられるようになったのは、2年夏以降。2年秋フレッシュトーナメントは1試合にベンチ入りも、登板機会はなかった。

 学生ラストシーズンにチャンスがやってきた。

 今秋のリーグ戦を前にしたオンライン会見で、慶大・堀井哲也監督が「4年生の注目選手」に挙げたのは笠井だった。夏場に急成長し「勝ちパターンで使いたい」と、リリーフでの起用を示唆すると、東大1回戦でリーグ戦デビューし、立大2回戦でも救援した。そして、法大1回戦(10月19日)では7対2の5回から2番手で2回無失点に抑え、後続投手につなぎ、慶大は11対2で勝利。通算3試合目で、リーグ戦初白星をマークしたのである。

「勝利投手? まったく、考えていませんでした。先ほど聞いて、驚きました。結果を気にすることなく、思い切り腕を振り、とにかく、低めに強いボールを投げよう、と。一般入試で入り、下から這い上がって、神宮で投げることを目標にしてきました。チームの勝利に貢献できて、ホッとしています」

 学生最後の4年秋にして神宮初登板を遂げ、白星を挙げるのは、レアケースと言える。試合後、堀井監督は感慨深げに語った。

「高校時代に実績のない選手もいますので、1、2年生でしっかり体をつくって、3年生になったら、神宮で勝負できるようにする。そこが、ウチの目標です。モデルケース。下級生の励みになります」

 大学卒業後は地元・愛知の社会人企業チームで野球を続ける道が開けた。最速150キロにカットボール、カーブ、チェンジアップ、ツーシームを織り交ぜる。努力は裏切らない。その言葉を体現した笠井は、スタンドで観戦する後輩たちに最高の置き土産を残している。

文=岡本朋祐 写真=井田新輔
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