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監督に認められ「次男坊」から「長男」になった4年生。ヤクルト2位丸山和郁は「明治」の看板を背負ってプロへ

 

「割り切って、自分の色に」


明大の主将・丸山和郁はシーズン最終戦となった法大2回戦[10月27日]後、田中武宏監督へ4年間の感謝を口にし、涙を流した


「次男坊」から「長男」になった。

 今年1月8日の練習始動日。明大・田中武宏監督は新4年生に対して、やや厳しい評価を下していた。

「昨年の4年生は、主将の公家(響、大阪ガス)を中心によくやってくれました。一方で、この学年はもともと出来が良くない……(苦笑)。この1年間、かなり怒ってきました」

 明大は学年が上がるほど、プレッシャーが大きくなる。合宿所のトイレ掃除など、人が最も嫌がる雑用を、最上級生が担当する流れが確立する。歴史ある野球部の伝統を守っていかなくてはならない責任感。田中監督は新年の段階で主将・丸山和郁(4年・前橋育英高)以下の4年生に、物足りなさを感じていた。

「昨年までは、ヤンチャな次男坊。兄ちゃん(旧4年生)が卒業して、4年生にならないと分からない部分もある。自分のことはしっかりやるが、まだ周囲に対して遠慮がある」

 丸山も悩んでいた時期がある。これは、2019年の主将・森下暢仁(現広島)も通ってきた道だ。丸山は田中監督に相談すると、一つの方向性を導き出した。

「割り切って、自分の色に染めていこう、と。自分のチームにしていこう、と思いました。その根底にあるのは、高校時代にお世話になった荒井(荒井直樹)監督から教わった『凡事徹底』です。文句を言いたい部員もいたかもしれませんが、自分についてきてくれました」

 明大は2021年、春、秋とも東京六大学リーグ戦の優勝を逃した。10月27日の法大2回戦はシーズン最終戦。前日(26日)にV逸が決まり、モチベーションを保つのが難しい試合だったが、集中力を切らすことはなかった。

 1点を追う9回表、先頭の丸山は右二塁打で出塁。次打者の中飛でタッチアップするが、三進に失敗した。二死走者なし。ここで村松開人(3年・静岡高)が四球を選ぶと、四番・上田希由翔(2年・愛産大三河高)の右中間二塁打で追いつく。その裏、二死一、二塁のピンチを切り抜け、引き分け(6対6)に持ち込んだ(連盟規定により9回打ち切り)。粘りのメイジ、の真骨頂を披露したのである。

つながれる伝統


 試合後の会見で、田中監督は「丸山は高校2年時から見ている。丸山に限らず、4年生と一緒に野球をやれて楽しかった」と、労いの言葉をかけた。野球は、生活の一部。常日ごろからの合宿生活において規律を守り、リーダーシップを発揮してくれた4年生を「長男」と認めたのである。左横に座っていた主将は、こみ上げるものを抑えることができなかった。

「コーチ時代からたくさんのことを教わり(田中監督は2020年就任)、練習にも付き合ってくれた。思い出がたくさんあり、この4年間、感謝したいです。この明治のユニフォームを着て戦うことができない。(毎朝の体操時の日課である)校歌を歌うこともできない。とても、つらいです……」

 明大野球部のモットーは「人間力野球」だ。4年生は毎年、立派な大人となって、社会人へと巣立っていく。丸山は神宮を本拠地とするヤクルトからドラフト2位指名を受けた。明大からのプロ入りは、12年連続である。

「明治の看板を背負っている。一人の明治のOBとして恥ずかしくないプレー、行動をしていきたい」

 試合直後、丸山は練習相手でもあった3年生・村松に「来年、頑張れよ!!」と声をかけた。9回の土壇場で同点打を放った2年生・上田は「何か一つ、残したいと思っていた」と、4年生を良い形で送り出すために、全力でバットを振った。長男から次男、三男へと託されたバトン。明大はこうして、先輩から後輩へと伝統がつながれていくのである。

文=岡本朋祐 写真=矢野寿明
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