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プロ野球はみだし録

少年ファンは妙に納得? 江川卓が引退の会見で語った「禁断のツボ」【プロ野球はみだし録】

 

その場の雰囲気に酔って……


引退会見での江川


 プロ野球選手のラストシーンが続いている。喜怒哀楽、人それぞれのキャリアがあったことを痛感するが、かつてはゴタゴタも少なくなかった。もっとも新しい“騒動”は1987年、巨人江川卓が引退したときになるだろうか。13勝5敗の好成績で、王貞治監督にとって初のリーグ優勝に貢献していた。だが、西武と激突して敗れた日本シリーズが終わると、11月12日に会見。肩痛に苦しんでいることは知られていたが、一定の数字を残しながらの引退は衝撃だった。ただ、物議をかもしたのは、この衝撃ではない。中国の鍼で肩を治療していた江川は、「(鍼の)先生に言われたんです。残された道は肩甲骨の、ある部分に(鍼を)打つしかない。そうすれば(試合は)投げ切ることができる。しかし来年は投げられない。悩んだんですが、優勝に懸けようと打つことに決めました」と語った。

 この説明に、このとき小学生だった筆者の経験から言って、妙に納得した少年ファンは多からずともいたはずだ。当時の少年たちにとって愛読書のひとつが週刊少年ジャンプ。そこに連載されていた漫画『北斗の拳』でいう“秘孔”と、江川の語った“禁断のツボ”。小学生に両者が同じものに映っても責められまい。「江川を治療していたのは北斗神拳の伝承者だった」くらいのことを言ってしまった小学生もいたはずだ。この断定には今回の原稿料を賭けてもいい。ただ、鍼灸医の団体から抗議を受けた江川は、この発言を撤回。会見の雰囲気に酔って口がすべったという。だが、これにも共感した当時の少年は多かっただろう。最近よりも圧倒的に情報の入手が難しかった時代、江川の引退を知り、それを触れ回っているうちに、同じく雰囲気に酔って架空の物語を創作した少年もいたはずだからだ。

 80年代、テレビをつけると、毎日のように巨人戦が中継され、その中心にいたのは江川だった。江川と江川の活躍に夢中だった少年たちは一心同体だった、そんな仮説も浮かぶ。江川の引退は遠い昔のことだが、現在も“最高の投手”として支持されている江川。江川を支持しているのは当時の少年たちのような気がする。

文=犬企画マンホール 写真=BBM
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