週刊ベースボールONLINE

MLB最新事情

[MLB]嫌われ役にもなる、コミッショナーの難しい役割

 

ワールド・シリーズ前に記者に囲まれるマンフレッド・コミッショナー[中央]。グラウンド以外でもさまざまな問題に対応し、時には嫌われ役になり12月までに労使協定をまとめていくことになる


 10月26日、ワールド・シリーズの初戦、試合開始1時間前にロブ・マンフレッドMLBコミッショナーがエンゼルスの大谷翔平選手を特別表彰した。「ヒストリック・アチーブメント・アワーズ」で選ぶのもコミッショナーだ。

「88年のオールスター・ゲームの歴史の中で初めて投手と野手の両方で選ばれ、監督が先発投手に指名した。私がコミッショナーになって初めてこの賞を与えられることをとてもうれしく思う」と頂に金色の野球ボールを載せたティファニー製のトロフィーを手渡した。

 大谷と2人で満面の笑み。こういう役割だけならこの仕事は楽しいだろうなと思う。だがその1時間前、記者に囲まれたマンフレッド・コミッショナーを見てつくづく大変な仕事だと思った。アストロズとブレーブスの対戦は、両方彼が厳しい処分を下したチーム同士である。アストロズにはサイン盗みで2020年1月に、ブレーブスにはアトランタがマイノリティーの投票に関する新たな法律を作ったことに「われわれはすべてのアメリカ人の選挙権を守り、権利に制限を加えることに反対する」と、21年4月、オールスター・ゲーム開催地を取り上げた。

 だから両市にとっては嫌われ者で、どちらが勝っても、勝者にトロフィーを授与するとき、スタンドのファンからは歓迎されないだろう。そのことについて記者から質問されると「素晴らしいワールド・シリーズを楽しみにしている」とだけ答えた。だが問題は過去のことだけではない。クリーブランド・インディアンスが22年からガーディアンズに名称を変更、NHLのワシントン・レッドスキンズも21年はワシントン・フットボールチームという名前でプレーしている。

 だがブレーブスはブレーブスのままで、ファンがトマホークチョップ(インディアンが斧を振る仕草)で応援するのも容認。「MLBには全部で30の市場があって、すべて同じではない。アトランタはそのエリアのネイティブアメリカンの人たちとうまくやれていて、正しいかどうかを判断するのは地元の人たち。彼らがサポートしているので、それで終わりの話」と発言したが、ネイティブアメリカンや議会からは批判を受け、一部のメディアからもたたかれた。

 プロスポーツリーグは原則、政治とは無関係でいたい。しかしながら時にそうもいかなくなる。コミッショナーは「われわれのファンは多様だし、物の見方も異なる。フィールドのことだけに焦点を置きたいが、以前よりそれは難しくなっている」と本音も漏らしていた。その上で今、彼が抱える一番の難題が新しい労使協定の締結だ。

 このコラムでも何度も触れたが、今回は選手会との合意がかなり難しいと予想され、ストライキとなった1994年のように来季の公式戦がキャンセルされれば、世間から大きな批判を浴びることになるだろう。

 一番の責任者は彼だ。「定期的に会って話しているしプロセスを信じている。12月1日までに合意できる方法を見つけ出せると考えている」と話したが、各球団関係者も代理人たちもこの件に関し、悲観的な見方が少なくないのである。

文=奥田秀樹 写真=Getty Images
週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部

週刊ベースボール編集部が今注目の選手、出来事をお届け

関連情報

みんなのコメント

  • 新着順
  • いいね順

新着 野球コラム

アクセス数ランキング

注目数ランキング